著者
滕 媛媛
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.250-263, 2022 (Released:2022-03-05)
参考文献数
41
被引用文献数
6

新型コロナウイルス感染症の流行は,地域の人口動態にも大きな影響を与えており,地方移住が促進される転換点となる可能性に注目が集まっている。本研究では,東京都に居住する独身若年層を対象としたアンケート調査を実施し,コロナ禍が彼ら彼女らの移住意識に与えた影響について検討した。調査の結果,コロナ禍をきっかけとして16.6%の回答者に移住意識が生じており,その規定要因は新型コロナの流行前のものとは異なっていた。コロナ禍をきっかけとして移住意識が生じた人は,高収入,正規雇用者であり,移住先として大都市圏を志向しやすいという特徴がある。その一方で,低学歴・収入減少・不安感のある人も移住意識をもちやすい傾向があった。これらの結果は,コロナ禍における移住意識を誘発するメカニズムが,その社会経済的地位によって異なることを示唆している。ポスト・コロナ時代の移住促進政策では,コロナ禍をきっかけとして新たに生じた潜在的移住者の特徴を考慮すると同時に,社会格差や居住格差の拡大に留意する必要がある。