著者
漆原 秀子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究はモデル生物として知られる細胞性粘菌Dictyostelium. discoideumにおいて発生分化を支配する遺伝子間の制御関係をゲノムワイドに解析することを目指し、上流プロモーター領域の取得とデータベース化、遺伝子の発現特性による階層的グループ化、発現グループに特徴的な制御エレメントの抽出等による遺伝子間の制御ネットワークの解析を行った。プロモーター領域については転写開始点のばらつきを考慮してORF開始点を基準にとることとし、全予測遺伝子についてその配列を取得してデータベース化した。また、情報量の不足していた有性生殖期を中心にRNAを調製してアレイ解析を行い、これまで発現が確認されていなかった新規遺伝子約1,300個についての発現パターンを取得した。そのうち、性的成熟に伴って発現レベルが2倍以上に誘導される遺伝子が40個、1/2以下に抑制される遺伝子が123個、1/5以下になるものが51個であった。2倍以上に誘導される遺伝子と1/5以下に抑制される遺伝子についてリアルタイム定量PCRを行い、各々24個、13個について発現レベルの変化を確認することができた。MEMEプログラムによって特異的配列を抽出したところ、aggtc(t/a)aの配列が配偶子特異的遺伝子の上流に複数回出現していることがわかった。一方、細胞内シグナル伝達に関わるras遺伝子ファミリーの解析を行い、これまでに解析されているRasGグループとはやや系統的に隔たったRasXグループの6遺伝子(rasU, rasV, rasW, rasX, rasY, rasZ)が有性生殖期に特異的に発現することを見出し、シグナル伝達の仕分けを示唆することができた。これらの遺伝子がゲノム中にクラスターとして存在することを利用して4遺伝子と6遺伝子の多重破壊株を作製した。これらの破壊株において増殖と無性発生は正常であった。