- 著者
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潮 雅之
- 出版者
- 一般社団法人 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.3, pp.339-345, 2017 (Released:2017-12-05)
- 参考文献数
- 28
- 被引用文献数
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マキ科・ナンヨウスギ科樹木は熱帯では貧栄養土壌や高標高域でしばしば優占する。このことはマキ科・ナンヨウスギ科樹木の根が土壌からの養分獲得において同所的に共存する他の被子植物と比べて何らかの優位性を備えている可能性を示唆している。本論文ではマキ科・ナンヨウスギ科樹木の根の形態・共生する菌根菌・土壌養分獲得能力に着目して過去の研究をレビューする。マキ科・ナンヨウスギ科樹木は根に根粒様構造(nodule-like structure)を持っており、野外においてその構造の内部にはアーバスキュラー菌根菌(AM菌)が共生している。このマキ科・ナンヨウスギ科に特徴的な根粒様構造の機能は、これまでに主に窒素固定活性に注目して研究されてきた。窒素固定活性は主にアセチレン還元法によって定量され、先行研究によるとマキ科・ナンヨウスギ科の中で弱い窒素固定活性が認められた属(例えば、Agathis, Dacrydium, Podocarpusなど)も存在する。しかし、その活性はマメ科やカバノキ科ハンノキ属の植物など代表的な窒素固定植物と比べると極めて弱い。また、根の周囲の土壌(根圏土壌)を丁寧に除去すると活性が大きく低下することから、現在のところ、マキ科・ナンヨウスギ科樹木で検出される弱い窒素固定活性は根(もしくは根粒様構造)が直接保持しているものではなく、周囲の土壌に生育している自由生活型(非共生型)の微生物によるものと考えるのが妥当である。しかし、現在までのところ、マキ科・ナンヨウスギ科樹木の根に関する研究はその多くがオーストラリア・ニュージーランドなど南半球温帯に生育する特定の樹種に関してのものである。熱帯に分布するマキ科・ナンヨウスギ科に関しては研究例・研究者が少ないこともあり、まだ不明な部分が多く、新たな発見の余地が大いに残されている。例えば、近年大きく発展している分子生物学の技術を活用して共生している菌根菌や根圏土壌の微生物を調べることで新たな展開が期待される。