著者
大田 真理 大貫 隆子 潮平 俊治 矢吹 恭子 赤尾 正恵
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.8, pp.497-502, 2008-08-28
被引用文献数
1 1

症例は78歳,男性.近医へ外来透析通院中の患者で,2006年6月中旬より頭痛が出現したため21日近医の救急外来を受診した.頭部CTを施行し,脳出血や梗塞巣などの異常所見は認められず鎮痛薬を処方され帰宅した.しかしその後も頭痛は消失せず,6月26日見当識障害にて当院へ入院.当初の頭部CTでは異常所見は認められず,意識障害,ごく軽度の項部硬直,髄液所見(単核球優位の細胞増加83/3mm<SUP>3</SUP>,蛋白増加295mg/dL)よりウイルス性髄膜脳炎と診断し,アシクロビルの投与を行った.しかし呼吸状態も悪化してきたため一時人工呼吸管理となり,さらにステロイドパルス療法も併用し治療を行った.2週間後には人工呼吸管理から離脱でき,意識状態も完全に回復しリハビリ病院への転院を考慮するほどになっていた.しかし9月より再び意識状態が悪化し,頭部CT上造影剤で増強される腫瘤様陰影を認めたため,単なる髄膜脳炎ではなく中枢神経原発悪性リンパ腫の可能性を考慮し,2回目のステロイドパルス療法を施行した.これらの治療にもかかわらず11月よりさらに意識レベルは低下し,CT上の陰影も増大傾向となった.血清IL-2レセプター919IU/mL,髄液中IL-2レセプター259IU/mLと高値を示し,髄液細胞診上classIIIb,クロマチン増加の高い異型リンパ球を認めたため,画像所見などから中枢神経原発悪性リンパ腫が最も疑われると判断した.その後の治療にも反応せず12月26日永眠された.本症例のように当初はウイルス性髄膜脳炎様症状のみであり,後に画像所見上造影剤にて増強される腫瘤陰影の変化が現れ,中枢神経原発悪性リンパ腫が強く疑われた症例を経験した.亜急性の意識障害を呈する患者の鑑別診断のひとつとして,一般的な髄膜脳炎のみならず,中枢神経原発悪性リンパ腫の可能性を考慮する必要があると考えられた.