著者
澁谷 治男 渡辺 明子 融 道男
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

パニック障害におけるコレシトキニン(CCK)の関与が、とりわけCCKB受容体の関与が推察される。その根拠としては、(1)CCKB受容体アゴニストを投与すると健康人、パニック障害患者で通常の発作に非常によく似たパニック発作を誘発し、その誘発率は患者群で高い。(2)CCKB受容体アンタゴニストをラットやサルに投与すると抗不安作用を示す。(3)パニック障害患者では脳脊髄液に含まれるCCK8が減少している。(4)in vitroの研究でパニック障害患者のリンパ球をCCK4で刺激すると細胞内Caの増加は健常人の場合より大きい。(5)第1度親族のパニック障害罹病危険率は健常人が0.9%であるのに対してパニック障害患者では13.2%、女性の発現率は男性の2倍であるなど遺伝要因が大きく関与する疾患である。このような所見はパニック障害がCCKB受容体の機能亢進にもとずく病態であることを推察させる。そこで本研究ではパニック障害患者のCCKB受容体遺伝子をセカンドメッセンジャ系に直接関与する細胞内第3ループを重点的に遺伝子解析を行った。解析に用いたパニック障害患者81人(男性41人、女性40人)である。血液10mlからDNA抽出キットを用いてDNAを得た。CCKB受容体のエクソン2、3、4の各部位のついてそれぞれオリゴヌクレトチドプライマーを設計しPCRを行った。PCR産物は1.5%アガロースゲルを用いた電気泳動によって増幅を確認した。PCR産物はフロムフェノールブルーおよびキシレンシアノールを含む色素バッファーにて2-5倍に希釈し、95Cで5分間の熱変性の後、直ちに氷冷し、アクリルアミドゲルにアプライした。4Cあるいは18Cの2条件で電気泳動を行った後、アクリルアミドゲルに銀染色を行いバンドを検出した。その結果、SSCPによってエクソン2において2例、エクソン3で9例、エクソン4で3例にバンドシフトを認めた。すなわち、これらの部位でのDNA塩基配列の違いがあることを示唆しており、今後ダイレクトシークエンス法によってゲノムDNAの塩基置換を検索する予定である。さらに変異のある遺伝子頻度をパニック障害者と健常対象者と比較検討する予定である。