著者
澁谷 渚
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

全7章から成る本研究はザンビアの生徒の基礎的能力と高次的能力の向上をめざした数学の授業開発をおこない、その過程を教師、生徒、教材の三者の相互作用に着目して描くことが目的であった。これは数学学習達成度が低いと言われていながら、学習の過程や認知的側面が明らかになっていない途上国の現状を課題意識としてとらえるところから端を発したものである。本研究において基礎的能力は正の整数の四則計算能力を指し、高次的能力はパターン性の発見、探究、口頭や記述で数学的な見方を話し合うこと、そして授業開発は授業改善サイクル「計画-実施-評価(反省、改善を含む)」とすることを先行研究のレビューやザンビアや他の途上国の現状に鑑み設定した。今年度はザンビアにおける調査データから授業における三者の相互作用を浮かび上がらせるために授業の内実を掘り下げる分析を行った。分析では定量的授業分析と、数学の学習指導において教師と生徒の発話が活性化した場面を抜き出す定性的授業分析から、生徒の学びとそれを取り巻く指導、教材との関連性を論じた(第5章、第6章)。そこでは、先進的な教材の特性を教師が生徒の学習に合わせる形で用い高次な数学的能力の萌芽がみられる成功的な互作用と、対照的に基本とされる1桁の計算に生徒がつまづき、教師が従来型のアルゴリズムを強調する授業を展開したことで、教師中心型の授業に陥る様相の二つを生徒の学習過程とともに掘り下げた。本研究の成果は二点に集約される。・途上国の数学授業の内実を描き、授業における二つの対照的な教師、生徒、教材の経時的な相互作用をモデルとして示したこと・基礎的能力と高次的能力の同時的達成を途上国の授業で具体化したこと本研究の重要性は、国際協力の研究が見落としてきた教科の特性に注目した授業の内実を描き出し、生徒の学習の可能性と課題を事例ベースで描き、教育の質に関して貢献した点にあろう。