著者
澤 悦男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.1-17, 2001-12-25

この稿は,筆者が2001年1月23日に慶意義塾大学商学会報告会で行ったリポートの内容をまとめたものである。このようなトピックを選んだきっかけは,商学研究科世界銀行プログラムの一環として会計学(Accounting)の授業を担当していたときに,山一証券の倒産劇が起こり,それに関連して当時の日本の企業会計・監査制度を取り巻く環境を"粉飾"することなく留学生に伝えることを試みたことにある。最近の日本における「監査の失敗」と目される事件のいくつかは,山一証券のケースも含めて,1990年代までの日本的会計慣行,日本的監査慣行および日本的裁量行政がその背後要因としてあったことを探るのがこの稿の目的である。一口にいって,数年前まで日本の企業会計および財務諸表監査には次のような特徴が存在したといえる。・商法,証券取引法および法人税法からなる3つの会計法令および関係諸法令は,法人税関係を除き,財務諸表の様式と表示・開示に係る規定は詳細を極めるが,会計処理の基準については大まかでフレキシブルであった。・監査基準および同準則は監査の基本的な考え方を示しているに過ぎず,具体的な監査実務指針(監査基準・手続書)は公表され始めたばかりであり,リスク・アプローチの監査手法は立ち上がりの段階にあった。また,1998年に容認された銀行の保有する株式の評価基準を低価法から原価法に切り替える措置や同年の土地再評価法などに見られるように,政府・行政による企業会計への介入,さらに金融機関等の貸倒引当金設定額や飛ばし行為の幇助的助言などのような業界または企業に対する決算指導が行われていたこも否めない。そして,このような介入や指導を産業界および会計士業界ないし公認会計士がよりどころとする傾向もあった。すなわち,それらを所与の前提として受けとめることにより,独自の判断を回避し,責任を政・官にゆだねることができるからである。最後に,山一証券の監査人に対して破産管財人により損害賠償要求訴訟が起きているが,法廷の場で当該事件の全容が解明され,問題の本質が明らかになることを期待したい。なお,この報告の後に活発な質疑応答があり,多くの僚友から貴重なコメントを頂いたが,紙幅の都合で割愛することをお許し願いたい。