著者
澤田 壮弘 上野 健一
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.473-496, 2021 (Released:2021-04-22)
参考文献数
65
被引用文献数
6

気象庁137地点の2日積算降水量を使い,2014―2019年寒候期における多降水事例を選出した。全球降水観測(GPM)主衛星に搭載された二周波降水レーダー(DPR)のプロダクツおよびヨーロッパ中期予報センター再解析データを使用した流跡線解析により、閉塞過程の温帯低気圧構造が多降水を引き起こす仕組みを解析した。多降水についての上位の事例のほとんどは温帯低気圧により発生し、その多くが成熟段階であった。上位50事例の中から、3つの南岸低気圧を抽出し、メソスケールの降水系と気流系の関係を集中的に診断した。多降水が発生した観測地点における時間降水量変化は、基本的にウォームコンベアーベルト(WCB)、コールドコンベアーベルト(CCB)、ドライイントルージョン(DI)の組み合わせの影響を受けていた。低気圧中心の東側に広がる層状降水域はCCB上の下層WCBと上層WCBから構成され、低気圧中心付近の対流性降水域はWCB上に上層からのDIを伴い、線状降水帯の形成とともに地上で強い降水強度をもたらした。対流性の降水活動は、停滞性の層状降水域上空に上層WCBとして湿潤な大気を移流させる働きを担った。さらに、DPRプロダクツは、低気圧中心の後面に延びる雲域(クラウドヘッド)での背の高い層状降水、中層(地上付近)での潜熱開放(吸収)、及び低気圧の発達を可能にするCCBに沿った渦位増加を確認した。