著者
濱口 知昭
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.23-31, 1998-12-15
被引用文献数
1

一般的に『生命保険』といえば,死という事象によりその保険金が支払われるのみと思うのはその発展の過程,名称から止むを得ないと考えられる。従って,生命保険の文字を見るとき,頭に飛来するのは『死』の一文字である。しかしながら,この点も時代と顧客の要請により商品を介し変化してきた。人の生活への対応課題を考えて見ると,死亡によるリスク,高度障害によるリスク,介護を受けるリスク,医療を受けるリスクと高齢になり生活するために必要な経済基盤の確立などが挙げられる。この観点から生命保険の主商品内容を整理すると,従来の死亡保障,災害保障,医療保障に加え,三大疾病保障,特定疾病保障などの疾病罹患に対する保障,更には特定損傷保障など日常生じ得る一部の外傷に対する保障,介護保障,また,老後の生活を保障する年金を含む生活保障,リビングニーズ特約(余命判断に基づく支払い)などが列挙される。この傾向をみると生前給付型保険が充実し,顧客ニーズに相応し,生活に密着した商品のラインナップとなってきていることがわかる。ここに眼を馳せる時,生命保険の大きなパラダイムの変化がみられる。即ち,保険の対象が死から生,生活へと正に推移してきたと言えよう。また給付を受けるのも家族のみではなく,被保険者本人が生前に自身で受け取り,自身の自己実現のため活用できるようになってきた。この点も大きな変化と言える。他から自身の保険への転換とも捉えられる。Life Insuranceを生命保険と訳したことも,死と直結したイメージができ上がった一因であろうが,今日ではFull Wallet & Empty Grave(一杯の財布と空っぽの墓)の言葉がでてくる様に,死のイメージとは遠い,生活に密着したイメージが出現しつつあるのが現状と言えよう。人生は,誕生という生ではじまり確かにその終焉である死で終えるが,仏教でいう四苦,生老病死はその生から死に至る生活の中にある。従来,生命保険商品は死という終焉のみに焦点があたっていたが,今日の商品の開発販売を見るとき正に人の四苦,生老病死という生活に密着した商品になっていることは見落としてはならない重要なことである。Life Insuranceは最早,今日的には生活に密着した生活保険になってきている。それ故従来にも増してこの観点を踏まえ,社会顧客の要請に十分応えていかなくてはならないと考えられる。