著者
濱村 貴史
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

アカシジアは、放置すると突発的な暴力や、自殺企図に至ることもあり、早急な対応が要求される抗精神病薬の重要な副作用として認識されてきている。本研究では、このアカシジアの脳内機序を解明し、アカシジアを惹起しない抗精神病薬のスクリーニング法を開発することを目的に以下の実験をおこなった。定型的抗精神病薬であるハロペリドール投与によって活性化する神経細胞を、臨床的にアカシジアに有効であるプロプラノロールがどの脳部位で抑制するか、Fos蛋白を指標にした脳機能マッピング法を用いて比較検討した。ハロペリドール(1mg/kg)投与により前頭前野皮質、線条体、側坐核、後肢知覚野、中隔、海馬、扁桃核などの広範な脳部位にFos蛋白が出現した。このうち、プロプラノロール(5mg/kg)前処理により前頭前野皮質、海馬、後肢知覚野においてFos蛋白発現が有意に抑制された。アカシジアは下肢のムズムズ感と精神運動不穏を主兆とするが、今回の結果から、後肢知覚野の神経細胞が活性化したことが、下肢のムズムズ感の直接原因として推定された。また精神運動不穏の原因部位として、前頭前野皮質の関与が示唆された。一方、錐体外路系の出力核である線条体においては、プロプラノロールはハロペリドールによるFos発現に影響を与えなかったが、これはプロプラノロールが抗パーキンソン作用を持たないことに一致している。今回の結果から、抗精神病薬のスクリーニングにおいて、抗肢知覚野にFos蛋白を誘導しない薬物を探索することにより、アカシジアを惹起しない抗精神病薬のスクリーニングが可能となる可能性が開けた。