著者
蔭山 正子 濱田 唯 横山 恵子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.23-019, (Released:2023-06-30)
参考文献数
22

目的 精神障害者施策は,地域生活中心へと進められており,地域における精神障害者の権利擁護支援は重要性を増している。本研究は,地域生活全般の場面において,精神障害者が認識する権利擁護支援が必要な状況と対処方法を明らかにすることを目的とした。方法 質的記述的研究とした。ピアアドボケイト(権利擁護支援を行う精神障害者)13人とその他の精神障害者12人にグループインタビューを実施した。逐語録を作成し,「精神障害者が認識する権利擁護支援が必要な状況とはどのようなものか,どのようにその状況に対処しているのか」という視点で意味のまとまりごとに区切り,コードを作成した。コードを権利擁護支援が必要な場面や相手ごとに分類した後,抽象度を上げ,カテゴリを生成した。結果 精神障害者が認識する権利擁護支援が必要な状況は,場面・相手に分類され,精神科外来,精神科入院,福祉施設,家族や親戚,学校,近所,就労,相談機関で生じていた。精神科外来では【精神科受診にたどり着けない】状況など,精神科入院では【圧力がかかり,逃げられない環境に置かれる】状況など,福祉施設では【利用者同士の恋愛関係を回避しようとされる】状況などがあった。家族や親戚では【病気の自分を理解・受容してもらえない】【劣悪な入院環境や強制入院によって家族関係が悪化する】【精神疾患のために婚姻関係に支障をきたす】状況などがあった。学校では【病気のために学校で孤立する】状況など,近所では【自治会の仕事をなかなか免除させてもらえない】状況など,就労に関しては【病気を伝えて働くが適度な配慮をしてもらえない】状況など,相談機関では【支援者に相談しても我慢を強いられる】状況などがあった。自身による対処方法としては,【転院する】【事業所を変える】など場所から逃げる方法がとられていたが,精神科入院においては【職員に逆らわない】という諦めの対応がとられていた。結論 精神障害者は,精神科医療だけでなく,家族,学校,近所など多様な場面や相手に対して権利擁護支援が必要だと認識していた。精神科病院へのアドボケイト制度の導入,精神疾患好発年齢における精神疾患の正しい知識の普及,合理的配慮の知識と適切な対応の周知などについて取り組みを進める必要性が示唆された。また,積極的な対処を増やすためにピアアドボケイトによる障害者への権利教育を行うことも期待される。