著者
東 大輝 中川 法一 上野 隆司 濱田 太朗 加納 一則
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第48回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2008 (Released:2008-09-16)

【目的】 投球動作は、下肢・体幹・上肢の全身の運動連鎖が重要であるとされている。しかし、投球動作で発生する障害に関して、股関節の可動域が投球後の肩関節可動域にどの程度影響しているかという具体的な報告はない。今回の研究目的は、股関節の可動域改善が、投球後の肩関節可動域に与える影響を検討することである。 【対象と方法】 健常成人で、野球経験者男性9名(右投8名・左投1名、平均年齢20.7±1.4歳)とした。 被験者には、投球前に股関節のストレッチングを行う場合(伸張時)と投球前に何もしない場合(非伸張時)の2つの条件下で、75球の全力投球を課した。投球前・投球直後・投球後1日目から4日目までの投球側肩関節の関節可動域測定を行い、経時的変化をおった。また、運動の持続効果を考慮してストレッチングを行う場合とストレッチングを行わない場合の実施順は無作為に選択した。肩関節90°外転位での内旋(2nd IR)および外旋(2nd ER)、90°屈曲位の内旋(3rd IR)の可動域を測定し、各可動域結果を伸張時と非伸張時で比較検討した。ストレッチングの方法は、膝関節伸展位での股関節屈曲(SLR)と股関節外転とした。統計学的分析には、対応のあるt検定と二元配置分散分析を用い、有意水準を5_%_未満とした。 【結果】 伸張時は、ストレッチング前に比べるとSLR、股関節外転ともに可動域は有意に増加していた(p=0.0004)。 2ndIRの投球後1日目は、伸張時で80.5±11.5°、非伸張時では70.0±14.7°と非伸張時が有意に低下していた(p=0.02)。2ndERの投球後2日目では伸張時で132.2±10.3°、非伸張時が123.8±9.6°となり、投球後3日目では、伸張時が137.7±12.0°、非伸張時が127.7±9.3°と非伸張時が有意に低下していた(p=0.01)。可動域の経時的な変化では、2ndIRにおいて、伸張時では投球前後の可動域に有意な低下は認められなかったが、非伸張時では投球前と投球後1日目、投球直後と投球後1日目および2日目、投球後1日目と3日目および4日目、投球後2日目と4日目の間で有意に低下していた(p<0.0001)。 【考察】 今回の結果から、股関節の可動域を向上させることで、投球後の肩関節の可動域低下を抑える効果があることが示された。これは、上肢に依存した投球動作が減少し、ball release時に強いられる外旋筋の遠心性収縮が下肢・体幹などに分散されたと考えられた。過去の報告より、肩関節の可動域制限が、投球障害を誘発するということから、肩関節の可動域低下の抑制は、野球選手における投球障害肩の予防につながる可能性があると言える。そのためにも股関節の可動性向上が重要となる。