著者
中嶋 仁 東 大輝 都留 貴志 加納 一則
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100637, 2013

【はじめに、目的】呼吸リハビリテーションプログラム(呼吸リハプログラム)の中で下肢の運動による持久力トレーニングは、エビデンスとして最も推奨されている。その方法は歩行練習、階段昇降練習、自転車エルゴメータ、トレッドミルなどがあるが、その中で最も処方されているのは歩行練習である。近年、歩行運動の一つとしてノルディックウォーキング(NW)が注目され、普及している。NWは、2本のポールを持ち歩行することで下肢だけでなく上肢にも負荷がかかり、通常歩行より高い運動効果が得られるとされている。糖尿病、パーキンソン病、心臓疾患や骨関節疾患のリハビリテーションにおけるNWの有用性が報告されている。しかし、日本における呼吸疾患に対するNWの取り組みや効果を報告したものはない。今回の研究の目的は、呼吸リハプログラムにおけるNWの導入効果について明らかにすることである。【方法】対象は、2週間の包括的呼吸リハ目的で入院した独歩可能な慢性呼吸器疾患患者7名(男性4名、女性3名、平均年齢72±8.6歳、VC:2.3±0.5L、%VC:86.8±31.5%、FEV1.0:1.2±0.6 L、FEV1.0%:53.6±14.1% %FEV1.0:59.0±18.0% )である。認知症、脳血管障害を有するものは本研究より除外した。対象者は入院中に呼吸方法、上下肢の筋力トレーニング、ストレッチや自転車エルゴメータなどの一般的な呼吸リハプログラムに加えNWを行った。NWの指導は、(社)全日本ノルディックウォーク連盟の公認指導員の資格をもつ理学療法士が行った。退院後は、自宅で継続させ週1回の外来フォローを行った。NWを加えた呼吸リハの効果判定として、運動耐容能、下肢筋力、健康関連QOL、身体活動量の評価を入院前1か月と退院後1か月に行った。運動耐容能の評価は6分間歩行テスト(6MWT)、下肢筋力は、ハンドヘルドダイナモメ-ター(アニマ社製μTasMT-1)を用いて膝伸展筋力を測定し体重支持指数(WBI:Weight Bearing Index)を求めた。健康関連QOLは疾患特異的尺度のThe St.George'S Hospital Respiratory Questionnaire(SGRQ)を用いた。身体活動量の評価は、スズケン社製の多メモリー加速度計測装置付き歩数計(ライフコーダー)を用いて計測した。計測値は、入院前1か月間と退院後1か月間の起床から就寝までとし1日の平均歩数を求めた。統計学分析として、入院前と退院後1ヵ月の各評価項目を対応のあるt検定を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】今回の研究は、当院の倫理委員会の規定に基づいて実施した。本研究の趣旨、内容、中止基準および個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。【結果】WBIは入院前1ヵ月35.7±15.4%から退院後1ヵ月52.4±14.7%と有意に増大した(P<0.01)。6MWTは入院前1ヵ月359.2±181.5mから退院後1ヵ月474.5±123.4mと有意に増大した(P<0.05)。SGRQの総得点は入院前1ヵ月48.1±23.6点から退院後1ヵ月35.0±18.0点と有意に変化した(P<0.05)。 身体活動量は、入院前1ヵ月5386±2485歩から退院後1ヵ月8923±2140歩と有意に増大した(P<0.01)。【考察】全ての対象者が、入院前より退院後に身体活動量が増大しNWを継続して行っていた。NWという新しいアイテムが、対象者の運動意欲や運動の動機づけの刺激となり身体活動量が向上したと考える。NWは通常歩行に比べて同じ歩行速度でも心拍数が有意に高い、酸素摂取量が多い、上肢の筋活動が多い、そして、エネルギー消費が多いが主観的強度に差がないなど高い運動効果が報告されている。また、ポールの使用方法を変えることで運動強度を低強度から高強度と患者状態に合わせて運動することが可能である。このようなことから、通常の呼吸リハプログラムにNWを行うことで、運動耐容能、下肢筋力、健康関連QOL、身体活動量が有意に増大したと考える。しかし、今回の研究では通常の呼吸リハも実施しており、NWそのものの効果を証明したとは言えない。これからの課題は、比較対象試験を行いNWの効果を証明することである。【理学療法学研究としての意義】呼吸リハプログラムにNWを導入した報告は日本には無い。今回の研究の結果、多数ある呼吸リハプログラムの中に、NWが新しい構成要因になりうると考えられることに本研究の意義がある。
著者
中嶋 仁 一圓 未央 奥川 和幸 東 大輝 松本 浩希 真田 将幸 加納 一則 辻 文生 中川 法一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O1160, 2010

【はじめに】包括的呼吸リハビリテーション教育入院(包括的呼吸リハ教育入院)の目的の一つは、運動習慣や健康増進に向けた自己管理能力を身につけることである。そして身体活動量の向上を図り、得られた効果を退院後もできるだけ長く維持させることである。しかし包括的呼吸リハ教育入院における効果報告は、呼吸困難感の軽減、運動耐容能の改善、健康関連QOLおよびADLの改善がほとんどで、身体活動量の変化を報告したものはほとんどない。身体活動量の変化を把握することは、呼吸や運動機能の効果を知るだけでなく情意や心理面に伴う変化を知るうえでも重要である。そこで今回の研究目的は、包括的呼吸リハ教育入院における運動習慣の実態を把握するために、教育入院前と退院後の身体活動量の変化を調査することである。また、運動耐容能、健康関連QOL、ADLの変化も合わせて調査する。<BR>【対象】対象は、当院における包括的呼吸リハ教育目的に入院した独歩可能な慢性呼吸器疾患患者16名(COPD15名 気管支拡張症1名)、男性15名、女性1名、平均年齢69.7 ±13.3歳であった。喫煙者、継続調査が出来なかった者、骨関節障害、脳血管障害を有す者は本研究より除外した。<BR>【方法】運動耐容能、ADL、健康関連QOLの評価を入院前1か月と退院後1か月に行った。運動耐容能の評価は6分間歩行テスト(6MWT)をおこなった。ADLの評価は、千住ADL評価表を用いた。健康関連QOLは疾患特異的尺度のThe St.George'S Hospital Respiratory Questionnaire(SGRQ)を用いた。<BR>身体活動量の評価は、スズケン社製の多メモリー加速度計測装置付き歩数計(ライフコーダー)を用いて計測した。計測値は、入院前1か月間と退院後1か月間の起床から就寝までの1か月間の最大歩数と1日の平均歩数とした。統計学分析は、入院前と退院後の各評価項目の平均値を求めt検定を用いて検討した。<BR>【説明と同意】今回の研究は、当院の倫理委員会の規定に基づいて実施した。本研究の趣旨、内容、中止基準および個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。<BR>【結果】6MWTは入院前が258.6±107.3m、退院後が317.6±317.9mであった(P<0.05)。千住ADLテストは、入院前が66.87±16.12点、入院後が78.35±22.28点であった(P<0.05)。SGRQの総得点は入院前が40.18±21.48点、入院後が35.05±18.04点であった(P<0.05)。身体活動状況としての1日の平均歩数は入院前が3416±2639.8歩、入院後が5491±2853.6歩であった(P<0.005)。最大歩数は入院前が5405.5±3751.9歩、退院後が8553.8±4492.9歩であった(P<0.001)。<BR>【考察】当院における包括的呼吸リハ教育入院は2週間であるが、諸家の報告通り運動耐容能、健康関連QOL、ADLは入院前と比較して退院後は有意に改善した。身体活動量は、入院前と比較して退院後は有意に増大した。以上の結果より、多職種がチームを組みさまざまな側面から介入する包括的呼吸リハ教育入院は、自己管理能力を高め運動習慣をつけることが出来たと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は、包括的呼吸リハ教育入院がADLやQOLだけでなく身体活動量も向上させることが明らかになったことである。退院後の身体活動量を把握することは、包括的呼吸リハビリテーション教育入院プログラムを再構築するうえで重要である。<BR>
著者
東 大輝 中川 法一 上野 隆司 濱田 太朗 加納 一則
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第48回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2008 (Released:2008-09-16)

【目的】 投球動作は、下肢・体幹・上肢の全身の運動連鎖が重要であるとされている。しかし、投球動作で発生する障害に関して、股関節の可動域が投球後の肩関節可動域にどの程度影響しているかという具体的な報告はない。今回の研究目的は、股関節の可動域改善が、投球後の肩関節可動域に与える影響を検討することである。 【対象と方法】 健常成人で、野球経験者男性9名(右投8名・左投1名、平均年齢20.7±1.4歳)とした。 被験者には、投球前に股関節のストレッチングを行う場合(伸張時)と投球前に何もしない場合(非伸張時)の2つの条件下で、75球の全力投球を課した。投球前・投球直後・投球後1日目から4日目までの投球側肩関節の関節可動域測定を行い、経時的変化をおった。また、運動の持続効果を考慮してストレッチングを行う場合とストレッチングを行わない場合の実施順は無作為に選択した。肩関節90°外転位での内旋(2nd IR)および外旋(2nd ER)、90°屈曲位の内旋(3rd IR)の可動域を測定し、各可動域結果を伸張時と非伸張時で比較検討した。ストレッチングの方法は、膝関節伸展位での股関節屈曲(SLR)と股関節外転とした。統計学的分析には、対応のあるt検定と二元配置分散分析を用い、有意水準を5_%_未満とした。 【結果】 伸張時は、ストレッチング前に比べるとSLR、股関節外転ともに可動域は有意に増加していた(p=0.0004)。 2ndIRの投球後1日目は、伸張時で80.5±11.5°、非伸張時では70.0±14.7°と非伸張時が有意に低下していた(p=0.02)。2ndERの投球後2日目では伸張時で132.2±10.3°、非伸張時が123.8±9.6°となり、投球後3日目では、伸張時が137.7±12.0°、非伸張時が127.7±9.3°と非伸張時が有意に低下していた(p=0.01)。可動域の経時的な変化では、2ndIRにおいて、伸張時では投球前後の可動域に有意な低下は認められなかったが、非伸張時では投球前と投球後1日目、投球直後と投球後1日目および2日目、投球後1日目と3日目および4日目、投球後2日目と4日目の間で有意に低下していた(p<0.0001)。 【考察】 今回の結果から、股関節の可動域を向上させることで、投球後の肩関節の可動域低下を抑える効果があることが示された。これは、上肢に依存した投球動作が減少し、ball release時に強いられる外旋筋の遠心性収縮が下肢・体幹などに分散されたと考えられた。過去の報告より、肩関節の可動域制限が、投球障害を誘発するということから、肩関節の可動域低下の抑制は、野球選手における投球障害肩の予防につながる可能性があると言える。そのためにも股関節の可動性向上が重要となる。