著者
濱田 瑞美
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、東アジアにおける仏教図像を、儀礼空間のなかで解き明かしていくことにある。最終年度である本年度の実地調査は、インドのデリー国立博物館所蔵のスタイン将来の敦煌画のうち、千手観音変相図6件および薬師経変相図1件を対象に行い、図像データを収集した。また、中国四川省の夾江千仏岩の千手観音寵および四川博物院所蔵の仏教彫刻の調査や、中国石窟のルーツにも関わるインドの石窟の仏教図像についての調査を行った。これまでに取得した図像データを基に、中国重慶大足石刻の薬師如来の図像と仏龕の尊像構成に関する論考、中国敦煌石窟の唐代の薬師経変の図像に関する論考、敦煌石窟吐蕃期の千手観音の図像に関する論考、敦煌莫高窟第323窟における窟内図像プログラムに関する論考を、誌上あるいは口頭で発表した。このうち、大足石刻の薬師寵の論考では、薬師如来と地蔵菩薩や尊勝陀羅尼幢とがいずれも地獄済度という共通の意味をもって寵内で組み合わされていることを明らかにした。敦煌石窟の薬師経変の論考では、薬師経変図中に設斎の様子が描き込まれていることから、薬師信仰の中で設斎が重要な行為であったことが確認されるとともに、そうした設斎図が中唐期以降の敦煌の窟内正面の仏龕内壁にも描かれる例から、現在欠失している窟本尊が薬師如来であった可能性を指摘した。窟内全体に関わる本尊に対する言及と、窟内空間において設斎と図像とが密接な関係性を持つという見解は、薬師如来だけに限らず、他の仏教図像研究にも適用できるものとして重要である。また、敦煌莫高窟第323窟の研究では、周壁図像の検討から、窟内全体の図像が相互に関連していること、図像を観ていく順序、石窟造営の目的の一端、および石窟造営時期についての新たな見解を提示し、石窟空間の機能を踏まえて仏教図像を解釈することの有効性が示されるに至った。
著者
濱田 瑞美
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

中国の摩崖石窟がどのような宗教的空間を現出していたかを明らかにするため、四川地域と関係の深い唐宋時代敦煌石窟の実地調査で図像資料を収集し、関連する経軌の解読および図像との照合を行い、論文を執筆した。また四川地域の千手観音龕における図像の解明および仏教儀礼との関係について、海外で研究発表を行った。敦煌地域の石窟壁画の千手観音変相についての実地調査は、莫高窟13箇窟14図〔第148窟主室東壁門上(盛唐)・第231窟甬道天井(中唐)および前室天井(宋)・第292窟前室西壁北側(五代)・第332窟前室天井(五代)・第335窟前室天井(宋)・第79窟前室南壁(盛唐)・第172窟前室南壁(宋)・第386窟主室東壁門上(中唐)・第45窟前室天井(五代)・第302窟甬道天井(宋)・第329窟前室天井(五代)・第402窟前室西壁門上(五代)・第380窟甬道南壁(宋)〕、西千仏洞1箇窟2図〔第13窟甬道東西壁(五代)〕、楡林窟7箇窟8図〔第36窟主室北壁(五代)・第35窟前室天井(五代)・第38窟前室天井(五代)・第39窟甬道南北壁各一図(回鶻)・第40窟前室天井(五代)・第30窟北壁(晩唐)・第3窟東壁南北両側各1図(西夏)〕に及んだ。各図における眷属像の配置図を作成するとともに、眷属像の種類や表現の相違について関連経軌によって解釈を加え、石窟の千手観音変相図と大悲会との密接な関連を指摘するに至った。また、石窟内の空間構想に関しては、莫高窟北周時代の中心柱窟の構造と図像考察を通して、窟内全体が説法空間に構想されていることを論じ、研究誌に発表した。そのほか、上記の海外研究発表を契機とし、宗教的な空間形成のコンセプトと図像および儀礼とが密接に関わるという筆者の理論を軸とした共同研究の計画が立ち上がった。