著者
熊井 三治 洲崎 好香 有吉 浩美
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.10-19, 2012-04-30 (Released:2017-12-28)
参考文献数
15

近年増加し続ける糖尿病において,その心理的な発症要因を明らかにするために,多面的生活ストレス調査表を施行した。また大うつ病患者と健常者において同様の調査表を施行し,三群間でその相違を比較検討した。次に糖尿病患者が有するさまざまな精神症状,病的性格,生活満足度の低下が糖尿病の原因なのか糖尿病悪化のための二次的結果なのか調べるために,糖尿病群においてHbA1cとそれぞれの尺度の相関を調べた。さらに問診表の質問項目の中かから,その特徴的な気質及び行動パターンより,セロトニン作動神経性向尺度,ドーパミン作動神経性向尺度,ノルアドレナリン作動神経性向尺度の新尺度を作成し,それぞれの尺度において三群間の相違を調べた。同様に糖尿病群において新尺度とHbA1cとの相関を調べた。糖尿病群とうつ病群は健常者群と比較しうつ傾向など多くの病的尺度が高く,幸福度を示す生活満足度が低かった。しかし、糖尿病群は大うつ病群と異なり過剰適応型性格が低く,攻撃型性格が高かった。またこれらの二つの性格は糖尿病の重症度とは相関していなかった。新尺度における比較では糖尿病群とうつ病群は健常者群と比較し,セロトニン作動神経性向尺度とドーパミン作動神経性向尺度はともに低いものの,ノルアドレナリン作動神経性向尺度は糖尿病において高値であり,HbA1cとも相関が見られなかった。これらのことより,糖尿病の精神症状の発症や生活習慣や生活満足度の悪化とその程度は糖尿病による二次的影響と言えるが,攻撃型性格やそれに伴うノルアドレナリン作動神経系の機能亢進が,糖尿病の心理的な側面での要因と考えられる。したがって糖尿病の生活指導や心理的アプローチにあたっては,多面的な生活ストレスの調査を行いながら行動療法を中心とした,糖尿病患者の各病相に合った総合的アプローチが必要であると言える。