- 著者
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熊切 拓
- 出版者
- 日本言語学会
- 雑誌
- 言語研究 (ISSN:00243914)
- 巻号頁・発行日
- vol.156, pp.97-123, 2019 (Released:2020-04-14)
- 参考文献数
- 31
アラビア語チュニス方言の一般的な否定文は,接頭辞maː-と接尾辞-ʃが述語の前後に共起することによって形成される。maː-は否定辞とみなされているが,-ʃの機能については定説がない。本研究では,否定以外の用法を含めた-ʃの機能の包括的な記述,およびモダリティの概念の導入という2つの観点から,-ʃの機能を論じる。-ʃは否定以外では疑問と想像を表し,否定においては「肯定的事態が事実でない」ことを表す。そこから,-ʃを非現実(irrealis)モダリティ辞と結論づける。「肯定/否定」の対立と-ʃの有無による「現実性/非現実性」の対立をかけ合わせると,次の4種のモダリティに整理できる。①肯定的現実性を表す文はmaː-も-ʃもなし,②否定的現実性を表す文はmaː-のみ,③肯定的非現実性を表す文は-ʃのみ,④否定的非現実性を表す文はmaː-と-ʃが共起。