- 著者
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熊木 淳
- 雑誌
- 尚美学園大学総合政策研究紀要 = Bulletin of policy and management, Shobi University (ISSN:13463802)
- 巻号頁・発行日
- vol.22/23, pp.31-45, 2013-03-31
本論の目的は、1950 年代にフランスにあらわれた音声詩の二つの起源を明らかにすることである。20 世紀前半の前衛詩の成果を引き継ぎつつも、独自の発展を遂げた音声詩の発生の経緯からして、きわめて還元主義的で、テクストやその意味作用よりも声や音に重きを置いたレトリスムの詩の影響は否定できない。なぜならそのレトリスムで活動行っていたフランソワ・デュフレーヌが発明した「叫びのリズム」が初期の音声詩とされるからである。しかし彼自身、『ピエール・ラルースの墓』(1958)においてテクストの意味作用に回帰し、またフランス音声詩の中心人物ともいえるベルナール・ハイツィックも同様に意味作用を決して放棄することなく、レトリスムとは全く違う文脈から音声詩に独特なアプローチを行っている。そこで本論では、フランスの音声詩を特徴づけたこのテクストの意味作用への回帰が、20 世紀前半にその活動を行い後の詩人たちに多大な影響を及ぼしたアントナン・アルトーの詩学と関連づけることで、フランスにおける音声詩の「退行」とも呼ぶべき現象を理論的に明らかにする。