著者
小池 透 熊谷 孝則
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

ヒトゲノム解析がほぼ完了した現在,それらがコードする個々のタンパク質の機能解析が次のターゲットとなっている。その解析には一定量の純粋なタンパク質が必要となるため,主に大腸菌を宿主としたタンパク質発現系が繁用されている。しかし,ヒトのタンパク質(酵素など)を大腸菌で作らせる場合,タンパク質の折りたたみシステムが異なるため,インクルージョンボディと呼ばれるタンパク質の凝集体(非天然型構造のタンパク質,不活性型酵素など)が生成する場合が多い。本研究は,それらタンパク質の凝集体を,本来の活性を持つタンパク質へ変換する人工分子シャペロン(タンパク質三次構造の再構築介添分子)を開発するものである。研究期間内に亜鉛イオンを分子内に二つもつ新規の亜鉛化合物群を合成した。それらの亜鉛化合物の構造とアニオンやチオール物質との相互作用について,NMR,pH滴定,各種分光分析法により検討した。その結果,アニオン種の内特にリン酸基をもつ分子とナノモル濃度で結合することを世界で初めて発見し,それらの分子がリン酸化プロテオーム解析試薬として有用であることが明らかとなった。合成した二核亜鉛化合物は,タンパク質のチオール基やフェノール基と1:1の複合体を形成することも明らかとなった。