著者
全 峰 深沢 徹 梁 広石 熊谷 安夫 橋本 博史 高崎 芳成
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.580-587, 2006-12-22
参考文献数
17
被引用文献数
1

目的: ヒトアジュバント病という疾患概念があるが,近年その是非がとりざたされている.本研究は,シリコンおよびパラフィンなどを使用した美容形成術の既往のある膠原病もしくは膠原病症状を呈する患者21名についてその臨床的特徴について検討し,疾患の発症における美容形成術との関連について考察する.対象: 1980年1月-2004年12月に順天堂大学医学部附属順天堂医院膠原病内科に通院加療歴があり,美容手術後膠原病症状・所見を呈した患者21例を対象とした.症例の年齢は27歳から75歳まで(平均61,3±10,0歳),性別は女性19例,男性2例であった.方法;(1)対象患者を定型的膠原病と診断できる群(第I群: 14例)と膠原病を示唆する臨床症状・検査所見を認めるが,特定の膠原病の診断基準を満たさない群(第II群: 7例)に分類し,美容形成術から発症までの期間,臨床所見について比較検討した.(2)対象患者群(21例)と1989年に熊谷が報告したヒトアジュバント病症例群(29例)と臨床的特徴について比較検討した.(3)対象患者第I群の疾患のうちわけを,本邦における疾患別発症頻度と比較検討した.結果: (1)発症までの期間は第I群と第II群の比較では有意差はないが,第I群は第II群より自己抗体陽性率が高かった.(2)熊谷が報告したヒトアジュバント病の症例群と自験例とともに強皮症との関連が強く,また自験例ではシェーグレン症候群との関連性も示唆された.(3)本邦における疾患別発症頻度と比較すると,第I群では強皮症およびシェーグレン症候群の比率が高かった.考察: 美容形成術の既往と強皮症,シェーグレン症候群との関連が示唆されたが,発症までの期間が長いことや,実験的には美容形成術で使用された異物が免疫応答を誘導することは証明されていないことから,ヒトアジュバント病と美容形成術との関連は明らかでない.今後,異物に対する患者リンパ球あるいはマクロファージなどの反応性について免疫学的な解析をすることが必要である.