著者
熊谷 幸民 小野山 敬一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-85, 1988-11-30
被引用文献数
1

1.北海道の胆振,日高,上川,網走,十勝,釧路,根室の7支庁管内で,有害鳥獣駆除の捕獲者に対するアンケート調査と聞き込みおよび現地調査によって,エゾシカによる農作物被害の実態を調べた。2.アンケート調査での被害作物はビート,マメ類,トウモロコシ,コムギ,バレイショ,牧草が主で,他に水稲,ソバ,野菜類(ダイコン,スイカ,カボチャ,タマネギ)があった。ビートは5〜6月に,マメ類トウモロコシ,バレイショは6〜10月に,コムギと牧草は4〜6月に被害が多かった。3.アンケート調査で被害回答の多かった作物は,必ずしも作付け面積の大きさに比例していなかったが,被害回答の多い作物の畑では有害鳥獣駆除によるシカの捕獲数も多かった。4.聞き込み調査による被害状況はアンケート調査の結果を裏付けるものであった。被害形態は食害と踏圧害に分けられ,作物種と時期によっておよそ定まっていた。被害地が沢筋,山間部または防風林の近くの農耕地であること,畑に出てくるのは雌が多いことは各地で共通していた。5.被害地でのエゾシカは,ビート,マメ類などの特定種に嗜好性を示しながらも,それらのない地域あるいはない時期には牧草に依存するこというように生息地の環境に順応し,その食性の幅が広いことないしは可変性を持っことが考えられた。6.被害地におけるエゾシカの行動と農作物被害の状況は,餌植物の季節的変化(農作物の成長と隣接林内の植生変化)とエゾシカの生態的特徴(越冬地からの移動と繁殖)の複合的な要因によって決まると考えられる。
著者
小野山 敬一 熊谷 幸民
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.115-129, 1989-06-30

有害鳥獣駆除におけるエゾシカの捕獲状況についてのアンケート調査を7支庁管内(胆振,日高,上川,網走,十勝,釧路,根室)について行ない,捕獲時に目撃された群れ構成と大きさ,捕獲された時期,時刻,捕獲地の植生,捕獲地周辺での生息状況を調べた。群れ構成としては,雄と雌の混成群が約半数を占め,ほとんどの場合雌の方が多かった。雄の単独個体は,10月と6月に多かった。雌の単独個体の場合は非常に少なかった。群れは1〜5頭の場合が多く,平均頭数は,4月に7.5頭と大きく,3,5〜8,10月は3.9〜4.8頭で,9,11,12月は3頭以下であった。群れの大きさと構成の変化に関係する要因として,エゾシカの繁殖期の行動,採食集団の形成が考えられた。性比(雌/雄)はエゾシカの自然個体群よりも少し高いと推定された。捕獲個体が目撃総個体数に占める比率からみると,雄は雌の約5倍選択的に捕獲されていた。雌雄とも,捕獲数は4〜7月と10月に多く,時刻別には5〜7時台と14〜18時台に多かった。草地における捕獲が最も多くて64.8%を占め,ついでビート畑(15.4%)とマメ類畑(8.6%)が多かった。日高,釧路,根室のように草地の作付け面積比率が特に高いところでは,草地での捕獲が多かった。胆振,上川,網走では草地での捕獲比率は作付け面積比率よりかなり低く,胆振ではマメ類畑,上川と網走ではビート畑での捕獲比率が,作付け面積比率に対してかなり高かった。捕獲地域一円には,エゾシカが繁殖地を持って1年中生息するという回答がほとんどだった。捕獲は森林に隣接した草地や畑で行なわれることが多いと思われる。捕獲者による推定生息密度の各支庁管内での平均値は,日高と釧路でかなり高く,ついで上川,網走,十勝,根室でほぼ同じで,胆振はやや低かった。全7支庁管内での平均は51.8頭/km^2であった。農耕地周辺では採食集団の形成あるいは高い環境収容力によって生息密度が高くなっていると考えられる。