著者
熊谷 悠香
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

当初の予定ではPI(3,4)P2の動態をマウス乳がんに置いて観察する予定であった。しかし、バイオセンサーの感度不足のためか、生体イメージングで目的分子の動態変化を観察することは難しかった。そこで、細胞増殖に関与する分子であるERKの活性を観察することとした。1. HER2陽性乳がんに置けるERKの活性を二こうしていき顕微鏡を用い生体観察した。その結果、個々のがん細胞に置けるERK活性は不均一であり、長時間にわたって維持されることが明らかとなった。2. MEK阻害剤、EGFR/HER2阻害剤をマウスに静脈注し、がん組織に置けるERK活性の変化を観察した。その結果、ERK活性の高い細胞は低い細胞に比べ活性を顕著に下げること、ERK活性の低い細胞はほとんど阻害剤に反応しないことが明らかになった。1と2の結果から、ERK活性ががん細胞の何らかの特性を反映しているのではないかと考え、実験3を実施した。3. ERK活性に基づき、細胞を分取し、tumorsphere形成能、がん形成能、がん幹細胞マーカーの発現度を検討した。その結果、ERK活性の低い細胞は高い細胞に比べ、tumorsphere形成能、がん形成能、がん幹細胞マーカーの発現レベルが高いことが明らかとなった。これらの結果は、ERK活性の低い細胞群にがん幹細胞が多く含まれることを示す。4. さらにERK活性とがん細胞の幹細胞性を調べるため、正常マウス乳腺細胞株J3B1AにMEK阻害剤を添加し、ERK活性を抑制したさいのがん幹細胞マーカーの発現レベルを検討した。その結果、MEK阻害剤処理群はがん幹細胞マーカー(CD24, CD61)の発現を充進させることが明らかとなった。以上の結果は、ERKの活性ががん細胞の幹細胞性を制御する可能性を示すものであり、MEK阻害剤の投与ががん細胞の幹細胞性を上昇させる可能性を示唆するものである。