著者
吉田 剛 内山 靖 熊谷 真由子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.143-150, 2003-12-30 (Released:2020-08-21)
参考文献数
16
被引用文献数
1

目的:嚥下時の喉頭運動が片麻痺や異常姿勢による頸部周囲筋の筋緊張異常により二次的にも阻害されうることに注目し,喉頭位置と喉頭挙上筋の筋力に関する臨床的指標を開発した.本研究の目的はこれらの指標の信頼性を検証し,臨床導入の可能性を模索するために,健常人の加齢・性差による影響を含めた基礎資料の獲得と,慢性期脳血管障害 (CVD) 患者との比較から開発した指標の臨床的有用性を明らかにすることである. 方法:対象は健常者,高齢者,CVD患者の109名であった.そのうち,検者内および検者間信頼性の検証は,嚥下障害のあるCVD患者10名を対象とし,加齢変化と性差の影響の検証は,健常若年者群30名と,高齢者群17名,CVDの有無については,高齢者群17名と慢性期CVD嚥下障害なし群20名,嚥下障害の有無については,慢性期CVD嚥下障害なし群20名とあり群32名を対象として各2群間を比較した.測定項目は,相対的喉頭位置を求める指標として,頸部最大伸展位でオトガイから甲状軟骨上端間距離GT,甲状軟骨上端から胸骨上端間距離TS,この2つの指標からGT/(GT+TS)を算出することによる相対的喉頭位置 (以下,喉頭位置) とし,喉頭挙上筋の筋力は頭部最大屈曲位での保持能力を頭部落下程度で4段階に分けるGSグレードとした. 結果および考察:検者内信頼性ICC (1,1) は,GT=0.943,TS=0.837,GSグレードは100%の一致率であった.検者間信頼性ICC (2,1) は,GT=0.905,TS=0.926,GSグレード=0.943であり,測定の信頼性は高かった.健常若年者群では,GT=6.4±0.9cm,TS=12.2±1.0cm,喉頭位置=0.34±0.04,高齢者群では,GT=6.6±1.0cm,TS=9.5±1.1cm,喉頭位置=0.41±0.05であった.以上より,加齢によりTSが短縮することで喉頭位置が下降することが明らかとなった.性差については健常若年者群でGTのみ有意差がみられた.また,CVDの有無による有意差はみられなかったが,嚥下障害の有無では,慢性期CVDにおいてTS,喉頭位置,GSグレードに有意差が認められ,本指標の臨床的有用性が示唆された.