- 著者
-
片山 脩
- 出版者
- The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan
- 雑誌
- 有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.8, pp.620-631, 1974-08-01 (Released:2009-11-13)
- 被引用文献数
-
1
1
食事は芸術であるという考え方は, フランス人だけのものではないように思う.日本料理の形のよさ, 色どりの美しさ, また微妙な味付は芸術にふさわしいものであろう.食品の評価には衛生的, 栄養的因子もさることながら, 味, 香, 色, 形, 口ざわりなど, いわゆる官能的価値も重要因子として関係してくる.したがって加工食品においては, これらの質の改良を目指して技術の開発が進められてきた.とくに加工度の進んだ最近の食品では, 機械的処理と化学物質の添加処理が複雑に組合わさった方式で製造される.したがって化学物質を用いずしては, その加工法が成立しないという場合が非常に多い.食品の着色や変色の防止についても多くの工夫がなされ, 古くは天然の動植物体あるいは鉱物に含まれる色素が着色のために用いられた.しかし19世紀中頃にいたって合成染料であるタール系色素が開発され, その染着力の強さ, 色の鮮かさ, 均質性, 安定性の高いこと, 安価であることなどの長所が大きくその用途を拡張したが, 食用にも多種類のタール系色素が利用されるようになった.わが国においても昭和39年には24種類のタール系が許可されていた.しかしタール系色素には発ガン性など毒性をもつおそれのあることが指摘され, アメリカ, その他でタール系色素の使用が制限されはじめたことから, 日本においても昭和40年に赤色1号, 赤色101号, 41年には赤色4号と5号, 橙色1号と2号, 黄色1号と2号および3号が, また42年には緑色1号, 45年に緑色2号, 46年に赤色103号, 47年に紫色1号が使用禁止となり現在では, 後述のような11種が残されるのみとなった.これら残されたタール系食用色素は一応かなり安全性が高いと考えられているが, 確定的な結論はなお今後の検討にまたねばならない.このようにタール系色素の使用がいちぢるしく制限されるようになったため, 再び天然色素の利用が注目されるようになり, そのための原料の検索, 製剤化, 利用面の開拓などの研究や技術開発がさかんになろうとしている.こうした事情を考慮すると, これからの食用着色料はタール系色素と天然色素のそれぞれの特徴を生かし, 組合わせた状態で使用されるという方向に進むものと思われる.本稿では, タール系色素を中心として述べるが, 天然色素についても主なものの構造, 性質等について解説することにしたい.