著者
片桐 仁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.269-279, 1997

骨折治癒過程における骨形成因子および仮骨の役割は, 先人により種々の方法で検討され, 近年明らかにされつつある.今回我々は, 骨折治癒過程における仮骨の役割と機械的刺激の影響を知る目的で, まず雑種成犬の腸骨に骨欠損を作製し, その部位に生じた3週目の仮骨を摘出して, 同犬の大腿骨に作製した横骨折内に移植した.さらに横骨折内に腸骨から採取した海綿骨を移植したモデルを作製し, 横骨折のみのものをコントロールとした.それぞれにつき骨折治癒過程を組織学的に検討した.その結果, 骨折後2週ではコントロールが他の2群より骨癒合が進んでおりwoven boneの形成がみられた.海綿骨移植群では, 未吸収の移植骨の壊死骨様骨片が認められた.仮骨移植群では移植部の細胞数の減少と血管腔の形成が認められた.骨折後4週においてはコントロールではgap内はwoven boneでみたされていた.海綿骨移植群ではwoven boneの配列がコントロールより多様である傾向がみられた.仮骨移植群では他の2群に比べwoven bone形成は遅れていた.骨折後7週において, コントロールではwoven boneは規則的に配列していた.海綿骨移植群においてもwoven boneの配列に規則性が見え, 骨折線もほぼ消失していた.仮骨移植群では移植部はwoven boneで埋まっているがまだ規則性に乏しい所見であった.次にこれらの犬の大腿骨の横骨折モデル (コントロール, 仮骨移植群, 海綿骨移植群) に対し創外固定器を用いて適度な固定を3週間行い, 固定器本体部のtelescoping mechanismを利用して軸圧負荷を加え, 骨折後7週目で組織学的に観察した.コントロール, 海綿骨移植群ともに骨折線は消失しており, 骨癒合はほぼ完成しているようにみられた.仮骨移植群でも骨梁の骨長軸方向への配列が見え始めていた.以上の結果より, 1) 骨折治癒過程の進展は2週では, コントロール, 海綿骨移植, 仮骨移植の順に優位であるが, 4週以後ではコントロールと海綿骨移植はほぼ類似の経過であった.2) 骨癒合促進には骨形成因子そのものより血管進入によるものの影響が強いものと示唆された.3) 仮骨は軟骨形成能も骨形成能も有しており, 環境因子により大きく影響を受ける.適度な固定ならびに軸圧刺激により骨形成能が促進され, 間欠的軸圧刺激 (dynamization) は通常の骨折治癒過程, 海綿骨移植の場合と同様に骨成熟を促進させることが観察された.