著者
牧田 利枝 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>1 目的</b><br><br>近年、路線バスの廃線や減便などにより、「買い物弱者」といわれる日常の買い物にも困る人々が出現している。今後急速に進展する高齢社会では、クルマを運転できない高齢者が増加し、健康・福祉問題にも大きな影響を及ぼすと考えられる。また、環境保全からも公共交通を利用する社会のほうが望ましく、公共交通の確保は喫緊の課題である。<br><br>「交通すごろく」は「自らの日常生活の行動が周辺環境に影響を与える事実に気づき、環境との観点から自らの暮らし方を変える必要性の気づきになる」ことを意図して遊びながら行動変容を促すものである(松村2006)。先行研究では小学校の総合的な学習の時間や社会科で「交通すごろく」を実施し、「CO2削減に役立つから公共交通を利用すべき」というような環境学習の側面が強い。しかし、CO2削減からのアプローチでは徒歩や自転車通学の高校生に対する公共交通利用の動機づけは弱い。よって、家庭科の「まちづくり」や「高齢者福祉」「共生」などの領域を学習したうえで環境学習を絡めた「交通すごろく」を実施することが望ましいのではないだろうか。<br><br>そこで本研究では、「交通すごろく」を活用した授業実践とそれによる生徒の意識変容等をとおして、高等学校家庭科で地域の「公共交通」を扱う意義について考察する。<br><br><b>2 方法</b><br><br>・実施時期 平成27年2月10日~24日<br>・対象クラス 商業科2年生全クラス(7クラス)256名<br> <br>・地域の「公共交通」を扱う授業は以下の手順で実施された。<br>(1)家庭科教師による「交通すごろく」の実施<br>(2)交通政策室による出前授業の実施(バス利用等の意識についてのアンケート)<br>(3)家庭科教師による「交通すごろくの仕組み」の再確認(振り返りの実施)<br><br><b>3 アンケート結果</b><br><br>「交通すごろく」をやってみて、もっとバスを使ってみようと「とても思った」「少し思った」と回答した生徒186名について利用意向の増加数を算出した。<br><br>・交通すごろくをきっかけに、もっとバスを使ってみようと思った人数186名(72.7%)<br>・これからバスを使おうと思う回数の平均0.148(回/人・日)<br>・普段バスを使っている回数の平均0.169(回/人・日)<br>・(0.169-0.148)&times;186(回/186人・日)<br>=0.021&times;189(回/186人・日)<br>=3.906(回/186人・日)<br>&rArr;1426(回/186人・年)となり、商業科2年生全体で年間約1400回バス利用が増える見込みとなった。また、自由記述では公共交通は環境に優しいといった感想が多かった。<b></b><br><br><b>4 生徒の振り返り</b><br><br>「交通すごろくの仕組み」を再確認し、振り返りをさせたところ、バス利用促進に肯定的な記述が多くみられた。しかし、生徒は高齢者の「移動のしにくさ」について教師が期待するほど記述できていなかった。<br><br>また、自転車通学の生徒は、費用負担の割にはバス便の数が少なく混雑するバス利用にさほど魅力を感じていないが、バス利用の必要性がわかったと記述している。出前授業のアンケートからはわかりにくいが、振り返りからは、現状をすぐには変えることができない生徒の葛藤を読み取ることができた。<br><br><b>5 結果と課題</b><br>アンケートや振り返りから、生徒は「交通すごろく」を通して、地域の「公共交通」の重要性に気づき、利用促進についての実践的態度が育まれたことがおおよそ確認できた。<br><br>また、生徒は「交通すごろく」により、買い物、通院、通学などの生活基盤を踏まえて「わがまち」を捉えることができた。つまり、「公共交通」を切り口として高齢社会における「まちづくり」を身近に感じることが期待される。<br>以上のことから、家庭科で地域の「公共交通」を学習することで領域横断的な学習が可能であることが示唆された。次年度(平成27年度)は、高齢者・障がい者、子育て中の若い親などの「移動のしやすさ/しにくさ」を考えさせるように改善する。<br><br>&nbsp;参考文献<br><br> 西田純二ら(2014)まちづくりDIY,pp.118-124,学芸出版社<br><br>桐谷正信(2014)小学校社会科におけるモビリティ・マネジメント教育の特質,埼玉大学<br><br><br><br><br><br><br><br><br>
著者
牧田 利枝 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.77, 2011

目標に準拠した評価では、「めざす姿」(行動目標)として、到達規準を設定し、ルーブリックによって評価基準を明確にし、教育評価がなされている。しかし、「意欲・関心・態度」のような情意面の「見えにくい学力」は、行動目標として表すことに適さず、評価しにくいという問題が指摘されている。また、中村ら(2006)は調理実習おける教師の情意面での評価が行動観察に偏り、ワークシートの記載内容の判定については、指導者より、生徒を知らない教師が判定したほうが客観性が高かった事例があったことを報告している。本研究では、高等学校家庭科における調理実習に対する「意欲」を学習の意義認知という認知的な動機づけ理論にもとづいて、調理実習に強く関連している興味(内発的動機づけ)を自律的に発達させ、さらに活用力に繋がる高度な認知領域である「思考・判断・表現」の学力形成とともに「動機づけ」が継続される様な授業デザインを実証的に検討することを目的としている。1年目(08年度)は高等学校家庭科における実習―実習以外の学習における価値づけを「主観的課題価値(subjective task value)」理論にもとづいて調査し、「役立ち感」「有用感」を高めることで調理実習の意義を認知させ、価値の内在化を促すことで意欲向上が期待できるという仮説をたてた。2年目(09年度)はこの仮説にもとづき、自己評価と組み合わせる「意義認知ワークシート」を開発し、その効果を検証した。3年目(10年度)は「意義認知ワークシート」を改良し、調理実習の意欲を高める「意義認知ツール」としての生徒の記述活動を構造化しその全体像としての授業デザインに取り組んだ。「意義認知ツール」における「意義認知ワークシート」への記述の質の変化が確認され、意欲の向上とともに、家庭での実践的態度に結び付くと考えられるような記述も見られたことから、調理実習が授業だけでなく、日常生活にいかされていると考えられた。また、教師が評価基準表を作成し、点数化した「意欲」と「テストの点数をとる」こととは、必ずしも一致しないことが確かめられた。さらに、09年度と10年度の「授業評価(自己評価)」をそれぞれクラスター分析した結果を比較すると、09年度では、「授業規律class rule」は協調性や公共心とは独立しており、教師が行う提出物や忘れ物チェックといった外的な統制の影響をうけていたが、10年度は「授業規律」が「協調性」「公共心」と相関がみられた。このことは、10年度においてクラス・グループの関係性依存的な学習態度が形成され、その結果、生徒の実習に対する意欲が向上したためと推測された。以上のことから、調理実習の「楽しさ」は情意面で強く表れやすいが「意欲」が高まった生徒の姿は生徒の自己統制的かつ主体的な学習態度と重なっており、「楽しい」といった初発の内発的興味を持続・発達させるためには、クラス・グループの関係性に依存した学習形態であることに配慮した授業デザインが望ましいことが確認された。また、「意義認知ツール」では生徒が1学期末の成績以降、意欲を減退・消失するような問題が生じなかったため、「関心・意欲・態度」の向上を見通した計画的な指導―評価が可能となり、日常生活で活用するなどの活用型の学力向上が期待される等、「意義認知ツール」の有効性が示された。