著者
徳永 誠 鵜飼 正二 伊勢 眞樹 永田 智子 宮越 浩一
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.305-308, 2018-04-18 (Released:2018-05-21)
参考文献数
13
被引用文献数
2

日常生活動作(ADL)の改善を比較するには,ADL改善指標の特徴を理解する必要がある.Functional Independence Measure(FIM)利得は,ADL改善指標として本邦で頻用されているが,天井効果という課題があり,層別化や制限が必要になる.天井効果のないFIM effectivenessは,欧米ではFIM利得以上に頻用されている.FIM effectivenessを重回帰分析に用いた報告は少ないが,これを目的変数にした重回帰分析の予測精度は高い.ADL改善を病院間で比較するために数種類の方法が考案されている.ADL評価の信頼性が重要であることを強調したい.
著者
鈴木 洋子 永田 智子 赤松 純子 榊原 典子 中井 昌子 野田 文子 矢野 由起
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.130-135, 2009-07-01 (Released:2017-11-17)
参考文献数
8

教育職員免許法上の指定科目と現行の学習指導内容及び教員養成上の必修科目が一致していることは必須であるが,教育職員免許法施行規則に設定されている家庭科に関する専門科目は,教科に求められている時代の要請に比べ,大幅な変革がなされていない。そこで,教育職員免許法施行規則に示された「教科に関する科目」と現行家庭科の学習指導内容の整合性を確認し,問題点の究明と改善の方策を探る際の示唆を得ることを目的に,高等学校教員の現行教育職員免許法施行規則に指定の「家庭」の教科に関する科目に対する意識を調査した結果,以下のことが明らかになった。・高等学校普通科における普通教科「家庭」の履修科目は,「家庭基礎」57%,「家庭総合」14%,であった。専門科目「家庭」の中の科目については「フードデザイン」と「発達と保育」の履修が多かった。・高等学校教諭普通免許状「家庭」の授与に指定されている科目・内容のうち,必要性が高かったのは食領域の「調理実習」「栄養学」「食物学」「食品学」と「保育学」であった。必要性が低かった科目・内容は「家庭電気・機械」「製図」「情報処理」「家庭看護」「家庭経営学」であった。不必要とされる理由に「他の教科で学習したほうがよい」「家庭総合・家庭基礎にない」の回答が多かった。「家庭電気・機械」「製図」「情報処理」は,中学校においては技術科の内容であることを考慮し,削除も含めて今後検討する必要があるのではないかと考える。・教育職員免許状では必要な科目・内容として指定されてはいないが,高等学校で家庭科を指導する上で教員養成上必要と思われる科目・内容に,「消費生活」「福祉」「環境と資源」「高齢社会」の回答が多かった。低かったのは「キャリア教育」,「ジェンダー」,「生活文化」,「少子化問題」であった。
著者
島村 珠枝 田口 敦子 小林 小百合 永田 智子 櫛原 良枝 永田 容子 小林 典子 村嶋 幸代
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.2_3-2_12, 2010-06-21 (Released:2011-08-15)
参考文献数
32
被引用文献数
2

目的:多剤耐性結核の治療のため隔離入院中の患者が病気をどのように受けとめ,どのようなことを感じながら入院生活を送っているかを明らかにする.方法:入院中の多剤耐性結核患者5名に半構造化面接を実施し,質的記述的に分析した.結果:病気について,全員が『治りにくい病気に罹った』と捉えた上で,『治るだろう』と受けとめている者,『治らないだろう』と考える者の両者が存在した.ほとんどの協力者が『先が見えない』と感じており,長期入院と隔離に大きなストレスを感じていた.入院生活について,全員が『楽しいことはほとんどない』と感じていた.『人に会えないのが寂しい』と閉塞感を訴え,『外とのやり取りで気が紛れる』と入院生活の辛さを紛らわせていた.『看護師との日常的な会話が楽しみ』と話す者もいた.結論:看護師は日常的に患者と関わる中で患者と外との接点になり得るため,日常的なコミュニケーション場面での配慮が求められている.
著者
海﨑 孝斗 澤山 郁夫 永田 智子 藤原 雅弘
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S47078, (Released:2023-07-24)
参考文献数
8

本研究では,大学生における手書きとタイピングによる日本語記述速度を比較した.またこの際,大学生は,手書きとタイピングではどちらがより速く記述することができると考えているのかという事前予想の正確性にも着目した.その結果,過半数(77.44%)の参加者がタイピング条件のほうが速い(ある定型文について,1分間でより多くの文字数を記述することができる)と予想したにも関わらず,実際には,タイピング予想群と手書き予想群のいずれにおいても,手書き条件の方が,1分間に記述した有効文字数がより多かった.
著者
錦戸 典子 田口 敦子 麻原 きよみ 安斎 由貴子 蔭山 正子 都筑 千景 永田 智子 有本 梓 松坂 由香里 武内 奈緒子 村嶋 幸代
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.46-52, 2005-09-15 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
3

保健師の用いる支援技術として,グループを対象とした支援は日常的に用いられており,重要な支援技術であると言える.先行研究として,いくつかの質的研究や活動報告などがみられるものの,保健師によるグループ支援に共通の枠組みや具体的な支援技術については十分に明らかにされていない.本研究では,保健師によるグループ支援技術を体系的に整理するための端緒として,保健師によるグループ支援の方向性と特徴を明らかにすることを目的に,既存文献からの知見の統合,ならびにグループ支援に関する概念枠組みの検討を試みた.システマティックレビューに基づいて17文献を選択し,それぞれの文献中に記載されている保健師によるグループ支援の具体的な働きかけを表しているフレーズを抽出した.それらを統合し,さらに抽象度を上げて分析した結果,「グループの形成支援」,「グループの主体性獲得の支援」,「グループ活動の地域への発展の支援」の3つのカテゴリーが,保健師によるグループ支援の方向性として抽出された.このうち,主体性獲得の支援,ならびに,地域への発展の支援に関しては,保健師活動におけるグループ支援に特徴的な支援の方向性であると考えられた.保健師は,グループ支援活動を地域ニーズの中で捉え,地域全体のエンパワメントの視点で関わっている可能性が示唆された.
著者
小林 裕子 村田 晋太朗 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【研究の背景と目的】<br><br> 平成29年告示の学習指導要領では,中学校家庭科において新たに「B衣食住の生活(5)生活を豊かにするための布を用いた製作」で「衣服等の再利用の方法」を扱うことになった。中学校学習指導要領解説技術・家庭編(2018)には「着用されなくなった衣服を他の衣類に作り直す,別の用途の物に作り替える」などが例として示されている。しかし,現在中学校で使用されている家庭科教科書(開隆堂・東京書籍・教育図書)の内,2冊はリフォーム・リメイク等の単語がイラスト付きで簡単に紹介されているのみ,1冊は古着を持ち寄り衣服や小物にリメイクしている団体の取り組みに関する内容であり,実践的で具体的な内容や方法は記載されていない。<br><br> 衣服等の再利用に関する研究として,高森(1999)や赤塚ら(2016)による「衣服等の再利用」に関する調査がある。中高生は衣服の再利用やリメイクに関心がない訳ではないが(赤塚ら2016),着用しなくなった衣服をリメイクする生徒は僅かである(高森1999)ことが分かっている。高等学校段階では消費生活やESDと関連づけた研究調査や実践があるが,中学校段階ではほとんど見当たらない。<br><br> そこで,中学校家庭科「衣服等の再利用の方法」の教材開発を目指し,本研究では中学生対象に「不要になった布製品の活用について」の質問紙調査を実施し,家庭で不要となっている布製品の実態や対処方法・リメイク経験や興味関心等について,中学生の実態を把握することとした。<br><br><br><br>【研究の方法】<br><br> 質問紙調査の内容は(1)家庭で不要になっている布製品の種類,(2)不用になった布製品の家庭での対処方法,(3)不要になった布製品を何かに作り替える(リメイク)ことへの関心度,(4)不要になった布製品を何かに作り替える(リメイク)ことの経験について,(5)何かに作り替えて(リメイク)みたい布製品の種類,(6)具体的なリメイクのアイデア(自由記述)である。<br><br> 2018年3月,兵庫県M市と大阪府S市の中学1・2年生422人(M市275人,S市147人)を対象に行った。<br><br><br><br>【結果】<br><br> (1)家庭で不要になっている布製品として,「Tシャツ(59.5%)」が最も多く,次いで「靴下(48.1%)」が家庭にあることがわかった。(2)不要になった布製品の家庭での対処方法は,「誰かにあげる・譲る(62.5%)」が最も多く,次いで「捨てる(59.5%)」となった。(3)要になった布製品のリメイクへの関心度は,「とてもある・少しある」と「あまりない・ない」がともに50.0%であった。(4)不要になった布製品のリメイク経験は「ある」の回答が31.3%,「ない」が68.7%であった。(5)リメイクしてみたい布製品は「Tシャツ(46.0%)」が最も多く,次いで「ジーンズ(41.5%)」,「タオル(36.7%)」,「ハンカチ(29.1%)」の順となった。<br><br><br><br>【考察と今後の課題】<br><br> 質問紙調査の(1)と(5)の結果から,家庭で最も不要になっている布製品であり,生徒が最もリメイクしてみたいと考えているものが「Tシャツ」であった。「Tシャツ」は,生徒が自宅から持参しやすく,リメイクに対して関心も高いことから,次期学習指導要領で新たに示された「衣服等の再利用の方法」を扱う授業の教材として適切であることが示唆された。<br><br> 今後は,不要になったTシャツをどのようにリメイクすることが中学生の発達段階に適し,かつ資質能力の育成に寄与するか,具体的なリメイクの方法を検討し教材化することが課題である。
著者
小林 裕子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】 <br>&nbsp; &nbsp;自然災害大国と呼ばれる我が国において、児童生徒に対し実践的かつ継続的な災害学習の実施は必要不可欠である。本研究の目的は中学校家庭科で災害時の食を扱った学習の開発、実施、評価を行うことである。前回の報告(小林、永田2015)では研究の第一段階として、中学生に災害に関する質問紙調査を実施した。その結果、食料を数日分備蓄している家庭は3割程度に過ぎず、災害時に水や食料の確保が不安だと答えた生徒が6割を上回っていた。また社会の中で広がりを見せる従来の「非常食」から保存のきく日常食を災害時に活かす「災害食」への転換や、「ローリングストック法」の考えはまだほとんどの中学生が知らないことが分かった。そこで次の段階として「災害食」を題材とした課題解決的な学習を開発し実践することとした。 【開発した学習】 <br>&nbsp; 開発した学習は3時間で構成され、B食生活と自立(3)ウの「食生活についての課題と実践」に位置づけた内容である。この題材の目標は「災害時の食生活に関心をもち、課題をもって災害時の調理活動と献立作成を体験することを通して、災害時に備えた食品の備蓄を工夫して計画を立てて実践できること」である。この目標に沿い、学習の構成は、1.生徒が災害時の食生活に関心をもち課題を見つけ、どのような解決方法があるかを知り考える 2.災害時を想定した「災害食」の調理実習を実施し、体験活動から工夫や学びをさらに深める 3.平均的な家庭の備蓄食品から災害時の一日分の献立を栄養バランスにも配慮して考え家庭での実践につなげる という展開とした。3ではB(2)イの献立学習内容を押さえながら家庭での備えの改善につながるよう工夫した。 <br> 【学習の実践】 <br>&nbsp; &nbsp;実践は兵庫県公立中学校2学年の生徒5クラス164名を対象に、2016年2月に行った。 第1校時の授業はパワーポイントを使用して行った。南海トラフ地震の被害想定と日本が自然災害大国であることの確認から入り、災害時の食生活の課題にはどんなものがあるか各自で考え、発表をして意見の共有を行った。次に日常的に保存のきく食品を備蓄しながら使い回す「災害食」の考えや、その実践方法として「ローリングストック法」が推奨されていることを学習した。従来の乾パンやアルファ米のように使わず備えておく「非常食」より、「災害食」は賞味期限切れの無駄がなく、味も普段から慣れているので合理的でよいという感想が大半を占めていた。 第2校時は災害時を想定した調理実習を行った。使う食材は保存食品のみ、水の使用は調理と洗い物含め各班2リットルに制限、ガスコンロは使用可とした。献立はポリ袋炊飯で作るわかめご飯とツナ缶を肉の代わりに使用したツナじゃがとした。栄養面で6つの基礎食品群をすべてカバーした献立である。炊飯時間が20分と短く洗い物も出ず、なおかつ食味も炊飯器で炊き上げたものとほぼ変わらないと生徒に大変好評であった。食器にラップを敷き洗い物を減らす体験も行った。被災地から生まれた節水になる工夫のすばらしさに感心している様子が伺えた。 第3校時は班活動とした。平均的な家庭の備蓄食品を各食品群別に分け一覧にしたプリントを配布し、まず各自で災害時の一日分の献立を栄養バランスも考慮して考えた。それを班単位で組み合せ1週間分にまとめるという活動を行った。その後、献立を立てる際に不足した食品や使用しなかった食品を挙げ、災害時の備蓄の課題を再度見直し、どのように改善していけばよいかを具体的に考えた。 今後は、授業で生徒が記入したワークシートの感想や自己評価、アンケートなどを分析し評価を行う予定である。
著者
チェ ジョンヒョン 村嶋 幸代 堀井 とよみ 服部 真理子 永田 智子 麻原 きよみ
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.948-958, 2002-09-15
被引用文献数
4

<b>目的</b> 在宅ケアサービスの利用に関する従来の研究では,複数のサービスを一括して扱うことが多かった。本研究では,訪問看護と介護サービスについて,各々の利用者の特徴を明らかにすることを目的とした。<br/><b>方法</b> 人口36,000人の S 県 M 町における平成 9 年10月 1 日時点の訪問指導台帳より抽出した調査対象高齢者134人に対し,質問紙を用いた面接調査を行った。訪問看護,ホームヘルプの利用に関して,①利用の有無,および,② Andersen のモデルの 3 要因(属性要因,ニーズ要因,サービス利用促進/阻害要因)との関連性を明らかにした。<br/><b>結果および考察</b> 134人中,訪問看護は38.1%,ホームヘルプは36.6%の人が利用していた。<br/> 訪問看護は,高齢者の ADL が低下しているほど,過去 2 年間の入院経験があるほど家族の世話の仕方が少ないほど,介護者のサービス利用への抵抗感が少ないほど利用しており,ニーズ要因が最も影響していた。<br/> ホームヘルプは,家族の世話の仕方が少ないほど,訪問看護を利用しているほど,利用しており,属性要因と利用促進/阻害要因が影響していた。<br/> 訪問看護とホームヘルプの両方の利用者は,看護のみの利用者に比べて,家族がケアを提供するのが難しく,また,ヘルパーのみの利用者に比べて利用者の ADL 等身体状態が低い。<br/><b>結論</b> 訪問看護とホームヘルプの利用を推進する要因は異なっており,両者を併せて利用している者は,複合的ニーズを持っているという特徴が認められた。
著者
中村 真理子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

【背景と目的】<br>&nbsp; 2009年告示学習指導要領における改善の基本方針,及び学習指導要領解説家庭編から,家庭科教育において&ldquo;生涯を見通す視点を明確にし,一生の中で家族や生活の営みを総合的にとらえる力&rdquo;が求められていることがわかる。<br>&nbsp; 一方,学習内容は大して減っていないにもかかわらず,必修科目の主流は2単位の「家庭基礎」であり,家庭科の授業時間は半減したといえる。そこで,学習内容の関係性を高めて一連の流れをつくり,少ない時間ながら内容の濃い授業にするために,ライフデザインを「家庭基礎」の主軸に据えることにした。ライフデザインとは多様な夢や目標を考えることで,生活設計に該当する。<br>&nbsp;&nbsp;「家庭基礎」の学習内容をライフデザインで包括するために,年度当初の単元「自分の生き方と家族(以降「導入単元」とする)」で,ライフデザインに直接関わる授業を実施し,生徒一人ひとりに「人生すごろく」を作成させる。この「人生すごろく」をベースとして,導入単元以降の授業を展開しようという計画である。<br>&nbsp; 本研究では,導入単元の効果を検証するとともに,その後の授業に生かす課題を把握するため,すなわち形成的評価のために,生徒が作成した「人生すごろく」を分析することとした。<br>【方法】<br>&nbsp; 導入単元において作らせた3クラス118人の「人生すごろく」を分析・評価した。<br>【結果と考察】<br>&nbsp; 導入単元の指導目標には「生涯発達の視点」「各ライフステージ課題の認識」「青年期の課題の理解」等があり,これらが達成されたかをみた。ほぼ全員ライフイベントを10以上あげ,分岐を設けていた。悪いこと(アクシデント)については,学生特有の留年や受験失敗等や日常起こりうる嫌なことが多かった。良いことに比べて記入が少なく,また分岐も乏しかった。人生にはどんなアクシデントが潜んでいるか,より現実的に「自分の将来」を考える必要がある。そこで「家庭基礎」のまとめの単元で,もう一度この人生すごろくを振りかえらせ,起こりうるアクシデントについて考えさせる必要がある。<br>&nbsp; ゴールは生徒に自由に設定させた。死を想定している生徒が27%,老年期を想定している生徒が48%であった。これらを合わせると75%の生徒が自分の老年期の生き方まで思いめぐらすことができたと考えられる。成人期までで終わった生徒については高齢者福祉の単元で補充する必要がある。<br>&nbsp; 青年期の課題である進学や就職はほぼ100%記入されていた。また,成人期の発達課題については,結婚が86%,「親になること」は70%の生徒が記入していた。そこで,単元目標はほぼ達成できたと考えられる。しかし,残り30%の生徒が親になることを想定できていないことが明らかになった。保育の単元で補う必要がある。<br>&nbsp; ライフイベントやすごろくのコマの設定等から,具体的に生徒の職業観・恋愛観・結婚観・家族観などを認識できた。「結婚や出産したら仕事は辞めるのが当たり前」と考える女子生徒が多かった。ジェンダー等について授業で説明したにもかかわらずこのような結果となり,性別役割分業意識の根強さが明らかとなった。<br>【まとめ】<br>&nbsp; 「人生すごろく」の分析から,導入単元の目標を達成できたことがわかった。さらに生徒の作品を詳細に分析することによって,「家庭基礎」各分野における指導に生かすための課題を把握できたことから,「人生すごろく」が形成的評価として活用できることがわかった。&nbsp;
著者
寺本 千恵 永田 智子 成瀬 昂 横田 慎一郎 山本 則子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.336-345, 2018

<p><b>目的:</b>救急外来受診後30日以内の再受診例に関し,再受診の原因や経緯からパターンを見いだすことを目的とした.</p><p><b>方法:</b>診療録による比較事例研究の手法で分析した.2013年2月~12月に都内1大学病院救急外来を受診した患者のうち30日以内に再受診をした者を対象とした.事例―コードマトリックスによる分析から事例をパターン分類し,パターン別に群間比較した.</p><p><b>結果:</b>136事例は,初回受診時に医師から再受診を促された【予定再受診】,帰宅後に再受診を促された【医療職者の指示による再受診】,同じ症状が悪化した【医療が必要になった再受診】,異なる症状が出現した【異なるエピソードでの再受診】,再受診の必要性が低いと思われる【軽症での再受診】の5つのパターンに分類された.</p><p><b>結論:</b>本研究では,救急外来の再受診には5つのパターンがあること,初回の救急受診時に患者のパターンを把握し,それぞれに必要な支援をすることの重要性が示唆された.</p>
著者
永田 智子 鈴木 真理子 稲垣 成哲 森広 浩一郎
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.Suppl., pp.161-164, 2008-02-10 (Released:2016-08-04)
参考文献数
4
被引用文献数
4

現職教師がデジタル・ティーチング・ポートフォリオを作成する活動とそのためのブログ環境を設定し,実践,評価した.実践では4名の現職教師が理科の授業についてブログに書き込みを行った.実践に参加した現職教師へ行ったインタビューから,本ブログ環境はおおむね使いやすいものであり,活動は授業の振り返りに役立つことがわかった.それに加えて,教師が実践や振り返りを継続するために,「日々のデータの蓄積」「蓄積されたデータの再利用」「他教師との比較による刺激」「実践継続の励み」「課題の提示」という機能が必要であり,ブログ環境や支援活動に組み込む必要があることがわかった.
著者
牧田 利枝 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>1 目的</b><br><br>近年、路線バスの廃線や減便などにより、「買い物弱者」といわれる日常の買い物にも困る人々が出現している。今後急速に進展する高齢社会では、クルマを運転できない高齢者が増加し、健康・福祉問題にも大きな影響を及ぼすと考えられる。また、環境保全からも公共交通を利用する社会のほうが望ましく、公共交通の確保は喫緊の課題である。<br><br>「交通すごろく」は「自らの日常生活の行動が周辺環境に影響を与える事実に気づき、環境との観点から自らの暮らし方を変える必要性の気づきになる」ことを意図して遊びながら行動変容を促すものである(松村2006)。先行研究では小学校の総合的な学習の時間や社会科で「交通すごろく」を実施し、「CO2削減に役立つから公共交通を利用すべき」というような環境学習の側面が強い。しかし、CO2削減からのアプローチでは徒歩や自転車通学の高校生に対する公共交通利用の動機づけは弱い。よって、家庭科の「まちづくり」や「高齢者福祉」「共生」などの領域を学習したうえで環境学習を絡めた「交通すごろく」を実施することが望ましいのではないだろうか。<br><br>そこで本研究では、「交通すごろく」を活用した授業実践とそれによる生徒の意識変容等をとおして、高等学校家庭科で地域の「公共交通」を扱う意義について考察する。<br><br><b>2 方法</b><br><br>・実施時期 平成27年2月10日~24日<br>・対象クラス 商業科2年生全クラス(7クラス)256名<br> <br>・地域の「公共交通」を扱う授業は以下の手順で実施された。<br>(1)家庭科教師による「交通すごろく」の実施<br>(2)交通政策室による出前授業の実施(バス利用等の意識についてのアンケート)<br>(3)家庭科教師による「交通すごろくの仕組み」の再確認(振り返りの実施)<br><br><b>3 アンケート結果</b><br><br>「交通すごろく」をやってみて、もっとバスを使ってみようと「とても思った」「少し思った」と回答した生徒186名について利用意向の増加数を算出した。<br><br>・交通すごろくをきっかけに、もっとバスを使ってみようと思った人数186名(72.7%)<br>・これからバスを使おうと思う回数の平均0.148(回/人・日)<br>・普段バスを使っている回数の平均0.169(回/人・日)<br>・(0.169-0.148)&times;186(回/186人・日)<br>=0.021&times;189(回/186人・日)<br>=3.906(回/186人・日)<br>&rArr;1426(回/186人・年)となり、商業科2年生全体で年間約1400回バス利用が増える見込みとなった。また、自由記述では公共交通は環境に優しいといった感想が多かった。<b></b><br><br><b>4 生徒の振り返り</b><br><br>「交通すごろくの仕組み」を再確認し、振り返りをさせたところ、バス利用促進に肯定的な記述が多くみられた。しかし、生徒は高齢者の「移動のしにくさ」について教師が期待するほど記述できていなかった。<br><br>また、自転車通学の生徒は、費用負担の割にはバス便の数が少なく混雑するバス利用にさほど魅力を感じていないが、バス利用の必要性がわかったと記述している。出前授業のアンケートからはわかりにくいが、振り返りからは、現状をすぐには変えることができない生徒の葛藤を読み取ることができた。<br><br><b>5 結果と課題</b><br>アンケートや振り返りから、生徒は「交通すごろく」を通して、地域の「公共交通」の重要性に気づき、利用促進についての実践的態度が育まれたことがおおよそ確認できた。<br><br>また、生徒は「交通すごろく」により、買い物、通院、通学などの生活基盤を踏まえて「わがまち」を捉えることができた。つまり、「公共交通」を切り口として高齢社会における「まちづくり」を身近に感じることが期待される。<br>以上のことから、家庭科で地域の「公共交通」を学習することで領域横断的な学習が可能であることが示唆された。次年度(平成27年度)は、高齢者・障がい者、子育て中の若い親などの「移動のしやすさ/しにくさ」を考えさせるように改善する。<br><br>&nbsp;参考文献<br><br> 西田純二ら(2014)まちづくりDIY,pp.118-124,学芸出版社<br><br>桐谷正信(2014)小学校社会科におけるモビリティ・マネジメント教育の特質,埼玉大学<br><br><br><br><br><br><br><br><br>
著者
永田 智子 藤原 容子 山本 亜美 潮田 ひとみ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】<br>&nbsp;&nbsp;家庭科の研究指定を受けている小学校の教員でさえ,ミシン指導に不安を抱えている(永田・鈴木2014).そこで永田ら(2015)は,将来の小学校教員である初等教員養成課程の学生に対し,ミシン使用の技能と指導の自信を高めるよう工夫した授業を実施した.その結果,ミシン使用の技能と指導の自信を一定程度高めることができたものの,改善の余地はあり,より詳細に検討する必要性が示唆された.そこで授業を改善し,その効果を詳細に検討することとした.<br>&nbsp;【研究方法】<br>&nbsp;&nbsp;研究対象は,2015年度にH大学で開講された小学校教諭の普通免許状授与のための必修科目「初等家庭科教育法」である.この科目を履修した学生(学部2~4年生,大学院生,計217名)のうち,被服実技に関する授業を3単位時間(1単位時間=90分)受講し,事前・事中・事後アンケートのすべてに回答した117人を分析の対象とした.また2014年度受講生の171人分を比較対象とした.<br>&nbsp;&nbsp;2014年度は,第1校時には,基本的なミシン操作に重点をおくため,糸をつけずに紙を空縫いさせる練習をした.第2校時には,糸の通し方から説明をはじめ,糸調子や裏表がわかるようにするため,上糸と下糸で色の違う糸をつけて紙を縫う練習をした.その後,ポケットティッシュケース作りをした.ティッシュの出し口は,手縫いで並み縫いと返し縫いさせ,両端はミシンで直線縫いさせた.<br>&nbsp;&nbsp;2015年度は2014年度に実施した授業の前に,手縫いを中心とする授業を1単位時間増やした.並み縫い・返し縫いに加えて,玉結び・玉どめ・ボタン付けを学習内容として新規に追加した.<br>&nbsp;&nbsp;また2015年度は事中・事後アンケートの質問項目を詳細にし,自信の程度を4件法(自信がある4~自信がない1)で尋ねた.<br> 【研究結果】<br>&nbsp;&nbsp;2015年度は,ミシンに関する自分自身の技能について,授業後は,直線縫いの自信が大きく向上した.一方で,糸かけや糸調節については,事前よりは自信は高まったといえるものの,直線縫いほど大きくは高まらなかった.またミシン指導に対する自信についても同様の傾向であった.直線縫いに関しては,紙の空縫いから始めて,練習を繰り返したことが奏功したと思われる.<br>&nbsp;&nbsp;手縫いに関して,2015年度は自分自身の技能についての自信は,授業後はどの項目も平均3点以上に高まった.これは2014年度に比べて授業時間を1単位時間分増やしたためと思われる.また,指導に対する自信についても,どの項目も高まったが,特にボタンつけについて3点以上に高まった.これは,ボタンのつけ方のみ児童用ビデオ教材を視聴させたことに起因していると考えられる.<br>&nbsp;&nbsp;以上のことから,今回行った3単位時間の授業を通して,ミシン縫いと手縫いの技能およびその指導に対して自信が高まったといえる.特に,紙の空縫い,紙の直線縫い,布の直線縫いと回数を重ねたミシンの直線縫いは,技能への自信を高めることがわかった.また手縫いは,時間を増やしたこともあり,全般的に技能に対する自信が高まった.特に児童用ビデオ教材を用いて説明したボタンつけは指導に対する自信も高まったことがわかった.一方で,実際に体験しなかったミシンの糸かけや糸調節,手縫いの返し縫いについては指導の自信が低いままであった.<br>&nbsp;&nbsp;今後,技能及びその指導に対して自信が低かった内容について効果的な指導法を検討し,さらなる授業改善を図りたい.<br>【引用文献】<br>&nbsp;&nbsp;永田智子・鈴木千春(2014)小学校家庭科教育研究指定校の教員が抱える不安,日本家庭科教育学会第57大会(岡山大学)<br>&nbsp;&nbsp;永田智子・藤原容子・潮田ひとみ(2015)ミシン使用の技能と指導の自信を高める初等教員養成課程『初等家庭科教育法』の工夫,日本家庭科教育学会第58大会(鳴門教育大学)
著者
永田 智子 藤原 容子 潮田 ひとみ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>【研究目的】</b>永田・鈴木(2014)の研究において,家庭科の研究指定を受けている小学校の教員でさえ,ミシン指導に不安を抱えていることが示された.現職研修も必要であるが,本来は教員養成課程の段階で自信を持ってミシン指導できる知識や技能を身に付けている必要がある.しかし家庭科の学習内容における教育学部生のつまずきで最も多いものが「ミシンの使い方(54.8%)」であり,その要因として,「機会が足りない」「方法・手順が複数ある」「教え方が不適切だった」「コツが分からない」「役割やしくみが分からない」「内容や作業が複雑だった」などが挙げられた(小林・伊藤2013).<br>&nbsp; そこで本研究では,将来の小学校教員である初等教員養成課程の学生に対し,ミシン使用の技能と指導の自信を高めるため,つまずきの要因をできるだけ排除した授業を工夫し,実践を通して効果を検証することとした.<br><b>【研究方法】</b>研究対象は,2014年度にH大学で開講された小学校教諭の普通免許状授与のための必修科目「初等家庭科教育法」である.この科目を履修した学生(学部2~4年生,大学院生,計217名)のうち,被服実技に関する授業を2単位時間(1単位時間=90分)受講し,事前および事後アンケートの両方に回答した171名(2年137人,3年4人,4年1人,大学院29人.男78人,女93人)を分析の対象とした.<br>&nbsp; 被服実技に関する授業では,第1校時には,縫い始めたい場所にミシン針をおろしてから押さえをおろすといったミシンの縫いはじめと縫い終わりの動作説明に重点をおくため,糸をつけずに紙を空縫いすることから始めた.第2校時には,糸の通し方から説明をはじめ,上糸と下糸の色をかえ,糸調子や裏表がわかるようにするなど,ミシンの仕組みや役割がわかるように,2段階で指導することとし,最終的に直線縫いでポケットティッシュケースを完成させる授業展開とした.<br><b>【研究結果】</b>事前アンケートより,小学校家庭科における手縫いやミシン縫いは多くの学生が経験していたが,中学,高校と校種が上がるにつれ減少していた(小学手縫い88.9%,小学ミシン88.3%,中学手縫い58.5%,中学ミシン57.3%,高校手縫い25.7%,高校ミシン26.9%).また,針と糸は自分のものを所有している学生は多いが(80.1%),自分のミシンを所有している学生は少なく(3.5%),家族所有もないとする学生も4分の1いた(26.9%).一方,家庭でミシンを作った物づくりは半数強が経験していた(52.6%).<br>&nbsp; 授業の理解度について「わかった」を4点,「わからなかった」を1点とした4件法で尋ねた,平均点を算出したところ,手縫い3.3点,ミシン3.2点と,おおむね授業は理解できたことがうかがえた.<br> &nbsp; 手縫いとミシン縫いの技術と指導の自信について,授業前後でのアンケート結果を比較した.手縫いは2.8点から2.8点,手縫い指導は2.1点から2.7点,ミシン縫いは2.5点から2.7点,ミシン指導は1.9点から2.5点へと向上した.事前において他の項目に比べて高かった手縫い以外の3項目が有意に高くなった(p<.01).以上のことから,今回行った授業において,手縫いおよびミシン縫いの技術と指導の自信が高まったことが検証された.しかし,授業後も自信がないとする学生が少なからずおり,さらなる授業の改善が求められる.<br><b>【引用文献】 </b><br>&nbsp; 小林歩,伊藤圭子(2013)家庭科における子どもの「つまずき」要因の検討一大学生の学習経験をもとに一,初等教育カリキュラム研究 (1), 69-79, 2013-03-31,広島大学大学院教育学研究科初等カリキュラム開発講座<br>&nbsp; 永田智子・鈴木千春(2014)小学校家庭科教育研究指定校の教員が抱える不安,日本家庭科教育学会第57大会(岡山大学)
著者
小林 裕子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

&nbsp;【研究目的】自然災害大国の我が国において,児童生徒に対し実践的かつ継続的な災害学習の実施は必要不可欠である。本研究の目的は中学校家庭科で「災害時の食」を扱った授業を開発し,授業実践を通して有効性と適切性を評価することである。研究の第一段階として,小林・永田(2015)は中学生に災害に関する質問紙調査を実施した。その結果,中学生は「災害時の食」への不安は大きいが,災害に関する知識や家庭での備えが不足していることが明らかとなった。この結果を基に,小林・永田(2016)は,「災害時の食」を扱う3時間構成の授業を開発し,実践した。実践は兵庫県公立中学校2学年の生徒5クラス164人を対象に,2016年2月に行った。 【授業評価の結果】 開発した授業の有効性と適切性を検証するため,以下の4つを実施した。 1)授業前後に行った「災害時の食」に関する知識アンケート 「「災害食」と「非常食」の違い」,「ローリングストック法」を「分かる」と回答した生徒は,事前3.7%から事後61.8%へ,事前2.5%から事後70.4%へとどちらも授業後大幅に増加した。 2)授業終了1ケ月後自由記述感想 「各時間の授業」,「学習の内容・活動」に関してカテゴリに分類した。また生徒の「~したい」の記述は,「災害時の食」と主体的にかかわろうとする意欲の表れで重要ととらえ,これも抽出しカテゴリに分類した。「各時間の授業」について記述した生徒は70.1%であった。その内2時間目について記述した生徒は59.3%で最も多く,次いで1時間目が50.0%で,3時間目は1.9%と少なかった。「学習の内容・活動」を記述した生徒は72.7%であった。その内「災害食」・「ローリングストック法」を記述した生徒が50.0%と最も多く,次いで「ツナじゃが調理」,「ポリ袋を用いた炊飯」が各40.2%,36.6%であった。「献立作成」は4.5%と少ない結果であった。「~したい」を記述した生徒は66.9%で,「作りたい」28.2%,「備えたい」20.3%,「実践したい」11.7%,「家族で話し合いたい」11.7%であった。 3)授業終了1カ月後アンケート 「授業後,本授業について家庭で話しあった」生徒は65.1%で,思春期の中2としてはかなり多い結果であった。「授業後,「災害時の食」に関する意識や考えに変化」があったと答えた生徒は75.7%と多く,変化の内容は「節水の大切さを考えるようになった」74.8%,「「非常食」より「災害食」が便利で役立つと考えるようになった」66.1%が上位であった。 4) 有識者対象アンケート調査 家庭科教育を専門とする大学教員7人に,開発した授業のアンケートを実施し,5段階尺度で各授業の「目標設定」,「内容や方法」,「生徒の興味・関心」の適切性,「開発した3時間の授業の総合的な適切性」を尋ねた。3つの項目の平均値がほぼ4以上の評価を得,総合的な適切性も平均値は4.6と高評価であった。 【まとめと今後の課題】 1)~3)の結果から,「災害時の食」の基本的な知識の習得,備えや対策を考えること,学習内容を家庭で共有することについては,大半の生徒が達成したと考えられる。また多くの生徒が本授業を積極的に評価し,「災害時の食」について主体的に考えることができるようになったことが分かり,授業としての有効性が認められたと言える。有識者からは本授業を家庭科で扱うことは適切であるという評価を得ることができた。以上のことから,本研究で開発した授業は有効であり適切であることが示唆された。今後の課題は,まず災害時の献立を考える授業の難しさを解消するべく,授業内容や活動の改善を図ることである。家庭や地域と連携した「災害時の食」の授業開発や実践を行うことも目指したい。
著者
牧田 利枝 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.77, 2011

目標に準拠した評価では、「めざす姿」(行動目標)として、到達規準を設定し、ルーブリックによって評価基準を明確にし、教育評価がなされている。しかし、「意欲・関心・態度」のような情意面の「見えにくい学力」は、行動目標として表すことに適さず、評価しにくいという問題が指摘されている。また、中村ら(2006)は調理実習おける教師の情意面での評価が行動観察に偏り、ワークシートの記載内容の判定については、指導者より、生徒を知らない教師が判定したほうが客観性が高かった事例があったことを報告している。本研究では、高等学校家庭科における調理実習に対する「意欲」を学習の意義認知という認知的な動機づけ理論にもとづいて、調理実習に強く関連している興味(内発的動機づけ)を自律的に発達させ、さらに活用力に繋がる高度な認知領域である「思考・判断・表現」の学力形成とともに「動機づけ」が継続される様な授業デザインを実証的に検討することを目的としている。1年目(08年度)は高等学校家庭科における実習―実習以外の学習における価値づけを「主観的課題価値(subjective task value)」理論にもとづいて調査し、「役立ち感」「有用感」を高めることで調理実習の意義を認知させ、価値の内在化を促すことで意欲向上が期待できるという仮説をたてた。2年目(09年度)はこの仮説にもとづき、自己評価と組み合わせる「意義認知ワークシート」を開発し、その効果を検証した。3年目(10年度)は「意義認知ワークシート」を改良し、調理実習の意欲を高める「意義認知ツール」としての生徒の記述活動を構造化しその全体像としての授業デザインに取り組んだ。「意義認知ツール」における「意義認知ワークシート」への記述の質の変化が確認され、意欲の向上とともに、家庭での実践的態度に結び付くと考えられるような記述も見られたことから、調理実習が授業だけでなく、日常生活にいかされていると考えられた。また、教師が評価基準表を作成し、点数化した「意欲」と「テストの点数をとる」こととは、必ずしも一致しないことが確かめられた。さらに、09年度と10年度の「授業評価(自己評価)」をそれぞれクラスター分析した結果を比較すると、09年度では、「授業規律class rule」は協調性や公共心とは独立しており、教師が行う提出物や忘れ物チェックといった外的な統制の影響をうけていたが、10年度は「授業規律」が「協調性」「公共心」と相関がみられた。このことは、10年度においてクラス・グループの関係性依存的な学習態度が形成され、その結果、生徒の実習に対する意欲が向上したためと推測された。以上のことから、調理実習の「楽しさ」は情意面で強く表れやすいが「意欲」が高まった生徒の姿は生徒の自己統制的かつ主体的な学習態度と重なっており、「楽しい」といった初発の内発的興味を持続・発達させるためには、クラス・グループの関係性に依存した学習形態であることに配慮した授業デザインが望ましいことが確認された。また、「意義認知ツール」では生徒が1学期末の成績以降、意欲を減退・消失するような問題が生じなかったため、「関心・意欲・態度」の向上を見通した計画的な指導―評価が可能となり、日常生活で活用するなどの活用型の学力向上が期待される等、「意義認知ツール」の有効性が示された。
著者
永田 智子 赤松 純子 榊原 典子 鈴木 真由子 鈴木 洋子 田中 宏子 山本 奈美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

1.問題の所在と研究の目的  家庭科教員を取り巻く現状は厳しい。小学校においては継続的に家庭科の実践研究を行う教員は少なく,家庭科授業の手本を示してくれる先輩教員や情報交換できる同僚が身近にいないことが多い。別の方法で小学校家庭科の授業者を支援する手立てが必要である。  小倉ら(2007)は,全国の小中学校における日々の理科授業の改善に役立てるため,優れた特徴をもつ理科授業をビデオ収録するとともに,その実践の何が優れているかを具体的に示すことによって,理科を指導する教師が参考にすることを目的とした研究を行った。本研究の基本的な発想は小倉らの研究に依拠する。つまり家庭科授業をビデオ収録し,その指導案を集めるだけでなく,家庭科教育の有識者が,その授業の何が優れており,何が課題なのかを具体的に示すことによって,家庭科の授業実施や改善を支援できると考えた。  ただし,小倉らの研究では,授業ビデオと報告書に掲載された評価コメントを,視聴者自身が対応付けながら視聴しなければならない点で不自由がある。そこで,共有された授業風景動画の特定場面と討論中の発言内容の対応を明示化する動画共有システムVISCO(小川ほか2009)を利用することにした。VISCOではコメントを具体的な映像場面に直接付与すると,吹き出しのように表示することなどが可能になるため,視聴しやすくなることが期待できる。  そこで,小学校家庭科授業の実施・改善を支援することを目指し,優れた点や課題点などのコメントを授業ビデオとともに閲覧することのできる動画共有システムと家庭科授業ビデオを一つのパッケージとして開発することを本研究の目的とした。 2.パッケージの開発手順と特徴  今回開発したパッケージには,VISCOおよび7本の小学校家庭科授業の動画ファイル,各授業の指導案が含まれている。   VISCOはWindows7を推奨環境とするシステムで,動画の映像場面にコメントを付与すると,インターネットを通じてコメント情報がサーバに蓄積される。視聴時には,インターネットを通じて,蓄積された複数人のコメント情報を動画上に吹き出しの様に重ねて表示させることができる。またコメントはリスト表示され,そこからコメントを挿入した場面に動画を移動させることもできる。  小学校家庭科授業およびその指導案は日本家庭科教育学会近畿地区会の有志によって収集・編集された。授業は学習内容A~Dから各1本以上とし(A=1本,B=2本,C=3本,D=1本),題材(テーマ)は重ならないように調整した。授業は学校長の許諾を得た上で撮影し,かつ子どもの名前や顔にはモザイク加工を施した。音声が聞き取りにくい場面にはテロップを付け,授業内容がわかる程度の長さにカットした(最短約16分,最長約38分,平均約24分)。  このように編集された7本の授業ビデオに,教員養成系大学・学部で家庭科教育に携わる研究者7名が分担して,VISCOを使って優れた点や課題・助言,解説等のコメントを付与した。1本当たりのコメント者数は3名,コメント数は平均48.3±11.5件であった。 3.今後の課題 小学校と同様の手続きで中学校・高等学校家庭科教育のパッケージを開発するとともに,研究者の付与したコメントの妥当性や有効性を検証することが今後の課題である。 本研究はJSPS科研費 24531124の助成を受けたものである。参考文献 小倉康ほか(2007)優れた小中学校理科授業構成要素に関する授業ビデオ分析とその教師教育への適用,平成 15 年度~18 年度科学研究費補助金 基盤研究(A)(1) 研究成果報告書 小川修史・小川弘・掛川淳一・石田翼・森広浩一郎(2009)協調的授業改善を支援するための動画共有システムVISCO 開発に向けた実践的検討,日本教育工学会論文誌,Vol.33, Suppl., 101-104