著者
牧野 博己
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.21-30, 1987-03-15

家庭ではふつうに話をするが幼稚園や学校ではひとことも話をしない子どもを緘黙という。我国では彼らは,情緒障害の一つとして特殊教育の対象ととらえられている。しかし,学校教育においてはその本態はあまり知られておらず,処遇についてもあいまいな状況におかれている。本研究は,最初に国内の先行研究の整理を行いながら,身近に7つの事例を得,親や学級担任から直接話をうかがい,内2例については筆者が直接かかわることができた。その経験から緘黙状態は,自我及び社会性の未発達による防衛機制の一つとして現れた適応障害であり,緘黙児は「特別に配慮された教育」の対象であることがより鮮明になった。ところが,緘黙に関する研究は主に医療機関,児童相談所,教育研究所で行われており,そこではさまざまな治療法が用いられ効果があげられていながら,それが学校教育にまで般化されていない。また学校では,軽度児の場合,周囲に迷惑にならないがゆえに放置される傾向にあり,重度児に至っては,問題とされながら指導の手だてが講じられないままになっているなど,いくつかの問題が明らかになった。同時に,早期教育,個別指導,養育者カウンセリング,学級における配慮などの必要性も明らかになり,緘黙の教育的処遇として,(1)緘黙本態に直接アプローチする特別な教育の場の設定,(2)養育者カウンセリングの実施,(3)学級の受け入れ体制の充実があげられ,この3者の連携によって指導がすすめられることを提言するに至った。