著者
牧野 泰彦
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1,安倍川は源流域に大谷崩と呼ばれる崩壊地をもち、世界的にみても砕屑物の豊富な河川の代表とみなすことができる。安倍川は全流域にわたって網状流路によって特徴づけられている。2,安倍川河口域における海岸地形について、明治28年発行の5万分の1地形図「静岡」から最新の地形図までを比較・検討した。18世紀初頭に発生した大谷崩以来、安倍川は大量の砕屑物で埋積されており、昭和30年頃まで河口には三角州が存在し、ほぼ平衡状態にあったと考えられる。このように沖側に凸状の地形が形成されている理由は、安倍川からの供給量が多いためである。その後、河口は海岸線がほぼ直線的で海側に凸状を呈していない。これは、大型の建築物や新幹線や高速道路などの土木工事がわが国で活発に施行された時期に対応しており、建設骨材として、安倍川の河床堆積物が大量に採取された結果、河口への供給量が大きく減少したためである。現在は、河口突出部がやや回復しつつあるようだ。3,河口域に到達した砕屑物は、沿岸流によって北西の三保海岸方向へ運搬されている。これは安倍川流域に産出する特徴的な礫(蛇紋岩)を追跡することによって判明している。現在の三保海岸は沿岸域に供給される砕屑物量が減少して、侵食状況にある。三保海岸侵食は、砕屑物の不足した部分が順次その運搬経路の下流方向へ移動し、現在、三保の松原付近まで到達している。つまり、この問題は自然環境に人為的な手を大きく加えたことによって生じたもので、そのシステムを理解して対応していれば起らなかったはずである。自然環境の基盤をなす地形や地質は、数万年におよぶ長い年月にわたる現象である。自然現象を眺める時間スケールは、当然それに対応していなければならない。海岸侵食のような自然環境に関わる問題では、このように長期間におよぶ現象に対する自然観を持つことで回避すべきである。