著者
犬束 歩
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

視床下部に局在するオキシトシン神経は多様な脳領域に投射しており、社会行動・摂食・ストレス応答といった多様な生理現象に関与している。現在、オキシトシンが社会行動に果たす役割が大きく注目を集めているが、オキシトシンのもたらす効果は成育歴や社会的文脈といった多彩な要因に修飾されることでその実態は捉えづらい。本研究は、複雑な入出力を持つオキシトシン神経の個別の投射経路を選択的に描出・活動操作し、その機能分担あるいは機能連関を明らかにすることを目的とした。平成29年度の研究実績としては、膜移行性GFPを選択的に発現させるAAVベクターを用いて室傍核に局在するオキシトシン神経からの投射経路を明らかにしたことが挙げられる(Nasanbuyan, 2018-Endocrinology)。オキシトシン受容体発現細胞の可視化には、GFPの改変体であるVenusを選択的に発現するOxtr-Venusノックインマウスを用いた。さらに、GFPに対する特異的結合を契機とするCre分子の再構成を利用したGFP-dependent CreをOxtr-Venusマウスに適用した。これにより、前頭前皮質のオキシトシン受容体発現細胞には従来報告されているソマトスタチン陽性インターニューロン以外の投射ニューロンが存在することを見出した。また、逆行性感染するAAVベクター(AAV retro)を利用し、室傍核のオキシトシン受容体発現細胞が扁桃体中心核へ投射していることも確認した。AAVベクターを用いた投射経路選択的な遺伝子発現制御に関しては共同研究の成果として、副嗅球から内側扁桃体への投射経路の描出・活動操作に成功した(Kikusui, 2018-Behav Brain Res)。