著者
狩野 春一 神谷 六美
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
建築雑誌 (ISSN:00038555)
巻号頁・発行日
vol.49, no.594, pp.27-37, 1935-01-05

昭和9年9月21日の關西風水害に際し、著者等は田邊平學、勝田千利の兩氏と共に東京工業大學より出張を命ぜられ、兼ねて建築學會の調査委員を委囑されて、9月22日より約1週間に亘り主として京、阪、神及び境の諸市並にその郊外に於ける小學校及び工場等の木造建築物の被害状況を視察した。前記の實地調査の結果に就いて見るに、木造建築物の被害の主なる原因が過去に於ける此種の災害と同じく全く從來の木造構造法の欠陷によるものにして、若し己に諸先輩によつて提示されたる補強又は改良法の忠實に施行せられたらんには其の程度は頗る縮減せられたりしものならんことを痛恨事とするものである。本文は著者等の視察報告であるが、特に從來の木造構造法に於ける欠陷の根本が、其の繼手、仕口及び部材の配列等が靜止時に於ける應力(主として壓縮)に對してのみ安全なる如く作られてゐること、換言すれば從來の木造建築物の構造法が全く積木式にして風又は地震力をうくる場合其處に生ずる引張應力に對する準備の乏しきことにあることを今囘の被害實例を以て指摘し、更に之に對する繼手及び仕口の補強法並に部材の配置或ひは用法等に就きて二三の考察を試みんとするものである。
著者
田邊 平學 狩野 春一
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
建築雑誌 (ISSN:00038555)
巻号頁・発行日
vol.48, no.590, pp.1087-1101, 1934-10-05

關東大震災以來毎年の如く各地に繰返へさるゝ大小の震災又は風害を親しく調査するに及んで、我々の生活に最も密接且つ重要なる關係を有する木造建築物に關して、耐震(又は耐風)構造上研究を要すべき餘地の未だ少からざる事實が認められた。著者等は此の點に鑑み、特に木構造に關して殘されたる諸問題に對して、順次實驗的に研究を進め、以て木造建築物の耐震(兼ねて耐風)構造上推奨するに足るべき規準に到達せん事を企畫するに至つた。竝に其の第1報として公表するものは、最も手近の問題として、現在住宅を始め一般の木造建築物に對して盛んに使用せられつゝある『釘打による大貫筋違の仕口』に關して試みたる實驗の結果である。實驗の内容は主として次の2種より成る。實驗 其1. 釘數及び釘配置が筋違仕口の強度竝に變形に及ぼす影響 實驗 其2. 筋違仕口に用ふべき釘補強鐵物の適當なる形状竝に寸法の決定 本研究は昭和6年度より繼續中のものであるが、昭和8年度以降は財團法人手島工業教育資金團より研究費の補助を受けてゐる。尚昭和6年度に試みたる實驗其1に就ては工學士野村芳太郎氏に援助を煩はし、昭和8年度に試みたる實驗其2に就ては工學士勝田千利氏及び當時學生たりし神谷六美、石井秀雄の両工學士が卒業論文の一部として實驗竝に結果の取纏めに從事された。追て昭和9年5月29日建築學會講演會に於て『木造筋違の仕口に關する實驗』と題して著者(田邊)の講演せるものは、本文内容の一端である。