著者
岸田 泰則 猪又 敏男
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.49-51, 1993-08-30

著者らはボルネオから未記録のリボンマダラガ科に属する1新種を見出し,記載した.リボンマダラガ科Himantopteridaeは,マダラガ科Zygaenidaeに近縁な小さな科で,後翅が細長い棒状をなすか後翅の一部が同様に変化した特異な外形を有する種群で構成される.アジアとアフリカに分布し,アジアでは広義のヒマラヤ地域とミャンマー,ジャワ,スマトラに2属4種2亜種が知られる.今回記載したボルネオ産は,アジアでの同科5つ目の種となる. Himantopterus nobuyukii Kishida & Inomata, sp. n.インド東部のナガ丘陵から記載されたH. dohertyi Elwesおよびジャワから記載されたH. fuscinervis Wesmaelに近縁であるが, donertyiとは前後翅の形状が異なる他,頭部,胸部,および腹部の色調の違いで区別され,またfuscinervisとは前翅の色が薄墨色で橙黄色とはならないことで区別できる.種小名は,本種を採集され著者らに研究をゆだねられた川崎市の小林信之氏に因む.
著者
Dubatolov V.V. KORSHUNOV Yu. P. GORBUNOV P. Yu. KOSTERIN O. E. LVOVSKY A. L. 猪又 敏男
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.177-193, 1998-06-30

東アジアには翅斑の特徴同様♂交尾器のよく分化したベニヒカゲ属のふたつの近縁種が分布していることが明らかになった.それらはクモマベニヒカゲErebia ligea(Linnaeus,1758)およびもう一つは同所的な種で,後者は古くErebia ajanensis Menetries,1857の名称をもち,本報では次の3亜種に区分した.1.原名亜種E.ajanensis ajanensis Menetries,1857ロシア,ハバロフスク州のオホーツク海沿岸地方に知られる.かつてはE.ligeaの亜種に位置付けられていた.今回,ロシア科学アカデミー動物学研究所(セント・ペテルスブルク)に保管されていた標本を後模式に指定して,標記の名称と均質群の地理的範囲を確定させた.2.亜種E.ajanensis kosterini P.Gorbunov,Korshunov et Dubatolov,1995ロシア,マガダン州南部に分布する.本集団は先にP.Gorbunov他(1995)で"Erebia kosterini"として新種として発表したものである.3.亜種E.ajanensis arsenjevi Kurentzov,1950ロシア極東地区南部,朝鮮,中国北部および東北部?に知られる.この集団もE.ligeaの亜種とされ,Kurentzov(1970)では独立種として扱われながらも,名称のつづりが誤っていた.本報でこの名称を担う後模式指定(ロシア科学アカデミー極東支部土壌生物学研究所)をして,地域集団を確定させた.上記3つの集団に対する名称群は,いずれも今回初めての昇降格,[種との]結合がなされた.また,それらの集団は広義の日本列島(サハリンを含む)の集団とは関連がない.一方,従来のE.ligeaについても検討し,本報においてE.ligea koreana Matsumura,1928およびE.eumonia Menetries,1859のそれぞれの後模式を指定した.後模式標本の指定後,名称eumoniaはE.ligeaの最も古い東方亜種名として活用できることとなり,北部を除くアルタイ山脈からマガダン州および朝鮮に分布する真のクモマベニヒカゲに適用した.この広大な地域から記載されたE.ligeaと想定される群は,E.ligea sachalinensis Matsumura,1919,E.ligea rishirizana Matsumura,1928およびE.ligea takanonis Matsumura,1909を除き,すべてE.ligea eumoniaの異名と考えられる.