- 著者
-
玉懸 慎太郎
- 出版者
- 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理学会大会 研究発表要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.31-31, 2004
本発表の目的は、マス・メディアとしての劇映画が、ロケ地に与える影響を実際の事例で検討することにある。本発表では、フィルム・コミッションが誘致した映画のロケ地が、映画のヒットによって「名所」になっていく過程を報告する。事例としたのは、映画「世界の中心で、愛をさけぶ」とそのロケ地となった香川県木田郡庵治町である。映画「世界の中心で、愛をさけぶ」は、300万部を突破した片山恭一原作のベストセラー小説を映画化したものである。映画の公開は2004年5月で、観客動員は400万人を超えた。劇映画とは別に、テレビドラマも制作され、「セカチュウ現象」という言葉を生み出した作品である。香川県木田郡庵治町は、高松市中心部から車で約30分ほどの距離にある。人口は約6,500人で「四国本土最北端のまち」「石と魚のまち」がキャッチフレーズであった。庵治町で撮影が行われた背景には、香川フィルムコミッションの存在が大きい。原作の小説の作者は、愛媛県出身のため、映画の行定監督らスタッフも瀬戸内海を中心にロケ地を探していた。そこで香川県観光協会内にある香川フィルムコミッションが、映画制作会社東宝に働きかけ、香川県内の数カ所を紹介した。スタッフが実際にそれらの場所を訪れ、庵治町が映画のイメージにぴったりだったことからロケ地に決定した。町に観光客が来始めたのは、2004年5月に映画が公開された直後のことである。ロケ地目当ての観光客が町に殺到した。町では慌てて4カ所に看板を設置し、ホームページでロケ地情報を提供した。7月にはパンフレットができあがり、町内の公共施設などで配布を始めた。このブームをきっかけに、庵治町では有志によるボランティア団体「庵治町おこし会」が結成され、7月24日から町役場に隣接する町民ギャラリーでロケ地と映画の写真展を始めた。将来的な課題として、映画ブームが去った後、どのように町おこしをしていくのかがあげられる。