著者
玉村 啓和
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

アミロイドβペプチドは、アルツハイマー病の老人斑の主成分であり、膜貫通型の蛋白質であるβアミロイド前駆体蛋白質(β-amyloid precursor protein : APP)がβセクレターゼ、および、γセクレターゼによって切断されて生じる。著者はアミロイドβペプチドの生成を抑制すべくβセクレターゼの阻害剤の創製に着手した。βセクレターゼがアスパルチルプロテアーゼであることから、阻害剤のデザインとしては、基質遷移状態に基づいた「hydroxyethylamine型のジペプチドイソスター(HDI)」を含む化合物が有用であると考えられた。著者は、以前からペプチド性医薬品の化学合成に関する研究を行っており、昨年度「aza-version Payne転位反応」と「O, N-acyl転位反応」を鍵基本反応とするHDI含有ペプチドミメティックスの効率的合成法を確立した。今年度、本法を用いて、コンビナトリアルケミストリー的に多数のHDI含有ペプチドを合成し、強いβセクレターゼ阻害活性を有するリード化合物の創出を目指した。その中からβセクレターゼ阻害活性が数十nMの化合物(分子量約900)を発見した。なお、本阻害剤は同時にassayして比較した市販品(ペプチド研究所、分子量1,650)の約5倍の活性を有しており(分子量は約半分)、今後βセクレターゼの阻害剤の創製研究を遂行するにあたって、十分な活性を有していると考えられる。今後、これをリード化合物として、低分子化、非ペプチド化、生体内安定化、高活性化、BBBの透過性の上昇に関する研究を行い、医薬品としてのプロフィールを向上させることを考えている。このような生体内安定性やBBB透過性の上昇のための分子変換に役立つジペプチドイソスターとして、適度な疎水性を有する(E)-アルケン型ジペプチドイソスター、(Z)-フルオロアルケン型ジペプチドイソスター、及び、塩基性を有する還元型ジペプチドイソスターがあり、今年度これらの立体選択的合成法を開発した。