著者
垣生 園子 守内 哲也 勝木 元也 玉置 憲一
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

T細胞はMHCと共に抗原を認識する。このMHC拘束性T細胞レパートリー形成は胸腺内分化過程で選択的に生ずると推測されている。しかしヌードマウスにもThy-1+細胞が少数検出され、胸腺非依存的に分化するT細胞の存在を示唆する。本研究ではT細胞分化における胸腺の役割を明確にするために、胸腺欠如ヌードマウスのT細胞系リンパ球の性状、分化段階を検討した。細胞表面分子を指標にして調べると、6週令マウスではThy-1+細胞は正常マウスの1/10以下で、多くはasialo GM1(GA1)をも発現していたが、成熟T細胞と異なりCD4、CD8、CD3、等は検出されなかった。即ち、幼若ヌードマウスには未熟型T細胞しか存在しないことが示唆された。しかし、加令と共にThy-1+細胞は増加し、その1/2以上はCD3+と同時にCD4あるいはCD8を発現していた。この結果は、緩慢ではあるが胸腺外でT細胞が成熟型に分化することを示している。また、CD3はT細胞における抗原認識レセプター(TCR)と常に共存して発現しているので、ヌードマウスThy-1+細胞はTCRを発現していることを意味する。実際、ヌードマウスのCD3+細胞上にはTCRVβ8が検出され、かつTCRβ鎖遺伝子再構成も証明されたので、抗原を認識し活性化され得る成熟型T細胞のヌードマウスでの分化が明らかになった。16週令ヌードマウスではアロ抗原と反応するT細胞や抗原特異的キラーT細胞は誘導され、ヌードマウスの成熟型表現型のT細胞は機能的に分化が完了していると考えられる。胸腺内ではT細胞はCD4+CD8+(DP)細胞を経て分化するが、ヌードマウスではそれら細胞を介さないで分化することが示唆された。DP細胞は胸腺内の自己反応性T細胞の選択的除去の候補であるので、それら細胞がないヌードマウスはトレランスを考える上で良いモデルとなる。