著者
理嵜 弥生 深津 葉子 宮本 三千代 須賀 良子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日農医学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.351, 2006

<B><はじめに></B>四肢切断術を受けた患者は危機的状況におかれ、障害を受容しそれを乗り越えるためのサポートが必要となってくる。今回、仕事中の事故で右上肢不全切断した患者の精神的変化に対するサポートについて振り返った。フィンクの危機モデル&sup1;⁾を活用することで、段階にあった看護介入や援助が行えたか分析し、結果、所見を得たので報告する。<BR><B><方法></B><BR>(1)対象及び経過:49歳女性、仕事中の事故で右上肢不全切断となり再接着術を行ったが、1ヵ月後急激に循環不良となり緊急で切断術を行った1事例<BR>(2)方法:患者との関わりを看護記録、スタッフからの情報、患者ケアカンファレンス用紙をもとに振り返り、フィンクの危機モデルを用いて分析した。<BR>(3)研究期間:受傷から退院まで<BR>(4)倫理的配慮:研究の取り組みと意義、プライバシーの保護について、患者に口頭で説明し同意を得た。<BR><B><結果及び考察></B>フィンクは危機のたどるプロセスをモデル化し、それを衝撃・防御的退行・承認・適応の4段階であらわしている。患者は受傷後上肢再接着術が行われ、比較的順調に経過していたが、術後3週目頃から発熱、疼痛増強、皮膚色不良となり、壊死組織による圧迫を疑い洗浄・デブリートメント術を行った。しかし、循環の改善はみられず高熱が続き、敗血症の危険性があると判断され翌日上肢切断術を行った。患者は受容できないまま切断となり、ただ一点を見つめ涙していた。この時衝撃の段階であったといえる。手術室入室までの間付き添い、訴えに耳を傾けるようにした。術後は会話の中で切断したことにはあまりふれず、時間が経つにつれ「昔に戻りたい」「治ると思っていたのに」と悲観的な言動が多く聞かれるようになった。また、人と対面することも避け塞ぎがちであった。この時防御的退行の段階であったといえる。訪室した際には患者が不安や悲しみの感情を表出できるよう傾聴し、精神的安定が保てるようサポートした。また、一番身近な存在である夫が付き添っており、患者の支えとなっていた。日が経つにつれ「手術してよかったんだよね」という言葉がきかれ、障害に向き合えるようになっていった。上肢を失ったショックは変わらずにあったが、その現実を受け止めていこうとしているようであった。この時は承認の段階であったと考えられる。この頃、退院の話もでて試験外泊を行った。「片腕がないのがこんなに不便だと思わなかった。これからどうしたらいいんだろう。」と不安もあったようだが、「洗濯物はたためたの。出来ることはやらなくちゃね。」と上肢切断という障害を受け止め、今後の生活について考えられるようになっていた。患者が一番不安に感じていることは何か、問題点は何かを見極め、解決に向けて働きかけていけるようにアドバイスするよう心掛けた。患者の多くは不安や問題を抱えたまま退院となってしまい、入院中に適応の段階まで迎えることが少ない。今回の患者は、外来にて義肢を作成することとなり、退院後は、外来にてフォローするかたちとなった。<BR><B><まとめ></B>危機的状況にある患者の精神的変化を把握するのに、危機モデルを活用することで、段階にあったアプローチを行うことができたと考えられる。<BR><B><引用文献</B>><BR>&sup1;⁾小島操子;看護における危機理論・危機介入-フィンク/コーン/アグィレラ/ムースの危機モデルから学ぶ、2004.6、金芳堂