著者
生塩 正義
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.95-"98-2", 1976

西南日本に分布することが確認されたトリハダゴケ属地衣2種, Pertusaria haematommoides ZAHLBR. と P. nagasakensis NYL. について報告した。どちらも, 1点の資料にもとづく原報告があるのみで, これまでその実態が不明確であった種である。Pertusaria haematommoidel ZAHLBR. は, 1933年に A. ZAHLBRUCKNER が朝比奈博士採集の台湾蓮花池 (Lienhuach) 産の資料に基づいて記載した種である。今回, 本種が日本(沖縄本島, 徳之島, 種ケ島)に分布していることが確認された。いずれも樹皮に着生していた。低く小さいレカノラ型の子器を多産する灰白色の明るい地衣体と未知の地衣成分(C+赤色)を含むことから, P.velata (TURN.) NYL. や P. philippina VAIN. と混同されやすい種であるが, 1胞子性の P. velata とは, 皮層を失った薄い托線を有する小さい子器とより小さい長楕円形の2重膜胞子(40-60×125-200μ)によって, また, P. philippina とは, 後者が2胞子性の種であることによって区別される。Pertusaria nagasakensis VAIN. は, E.ALMQUIST の採集品に基づいて W.NYLANDER が記載した種である。顆粒を散在する灰色の粗雑な地衣体, 数個の子器を容れる大きく不整な瘤状隆起(径5mm, 高さ3mmにも達する)とその上部のくぼみに数個開く点状の暗い子器孔, そして子のう内に一列に並ぶ有筋紋2重膜の8胞子 (35-45×70-110μ) が本種の特徴である。加えて, K, C, KCおよび PD による呈色反応がすべて陰性であること, そしてまた, リケキサントンを含むことによって, 日本産の他のトリハダゴケ属地衣と区別される。