著者
田下 昌志
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.52-62, 2009-01-10
被引用文献数
2

筆者は,2005年5月から2006年4月にかけて長野市の郊外でクヌギが主要植生となっている里山のうちから,長野市松代地区と同市新諏訪地区の2箇所で,人間の活動と里山のチョウ類の多様性との関係を調べるため,ラインセンサス法によりチョウの種と個体数を数えるモニタリング調査を実施した.調査地のうち松代地区は,森林の施業が行われており,現在でも多くの里山昆虫が見られる地区で,一方の新諏訪地区は,かつては豊かなチョウ相を示したが,現在は,森林化が進みチョウ影をあまり見かけなくなった地区である.その結果は,松代地区で39種541.00個体,新諏訪地区で32種379.00個体を観察した.種多様度を示すH'や1-λは,松代地区より新諏訪地区で高い値を示した.これは,松代地区では,オオムラサキやジャノメチョウの個体数で全観察個体数の約50%を占め,特定の種が突出したためである.人為的な管理が行われている里山は,特定の種にとって特に生息に適する環境を生み出しているほか,森林でありながらジャノメチョウの様な草原性の種を産するなど,人為に伴う攪乱により,種数は多いものの種の均衡性の乏しい環境を生み出していた.過去における松本市および長野市の平地部でのラインセンサス結果をもとに,人為による攪乱度(HI指数)と種多様性(H')を比較すると,人為の適度な干渉のもとで最大の種(チョウ群集)多様性が生み出されることが示された.