著者
澤田 明彦 田中 健康 磯部 貴光 齋藤 幸広
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.G1170, 2005

<B>【はじめに】</B>経済的な側面で未だ過渡期にある士会の運営は,多くの会員のボランティア的活動に支えられていると言える。職能団体である士会会員の本業が理学療法にあることは自明であり,士会業務が会員の本業を妨げないこと,また会員が負担を感じることなく士会の運営に関わることが望まれる。<BR> 士会の開催する研修会や講習会の参加登録者管理にも会員が携わるが,登録者リストの作成や登録完了の連絡など事務作業にかかる負担は少なくない。このような事務的な業務においては,会員が必要以上の負担を感じることなく関与できることが望ましい。<BR> 士会業務の省力化を実現するための,情報技術を活用したシステムについて紹介する。<BR><B>【システムの紹介】</B>研修会・講習会等への参加登録をオンライン上で可能とするために,Perl言語を用いたCGIプログラムを作成した。CGIプログラムは,ブラウザからのリクエストをウェブサーバ上で処理し,応答するための仕組みで,ユーザとウェブサイトのインタラクションを実現するために利用される。本システムは一般のウェブサイトに設置されているメールフォームあるいは商品注文フォームと同等のものであるが,参加登録に特化するために次の機能を持たせた。1)登録番号の自動生成と付与,2)参加者リストの自動生成,3)登録完了メールの送信。これらの機能によって,従来往復はがきでの登録の際に行っていた作業の大半が不要となった。<BR><B>【稼働例】</B>平成16年度神奈川県理学療法士会第4回講習会(平成16年度日本理学療法士協会神経系理学療法研究部会研修会との合同開催)における参加登録を,上記システムと従来同様の往復はがきによる方法で行った。往復はがきでの方法が,転載によるリスト作成および返信はがきの作成と作業が多かったのに比べ,今回のシステムを用いた場合に必要な作業は,定期的なリストのバックアップと稀にみられる入力エラー(多くはメールアドレスの誤入力)への対処のみであった。<BR> 講習会は100名を越える規模であり,従来の方法ではリスト作成もままならなかった。しかし,今回のシステムでは,リストが自動生成されていることで,その2次的利用,すなわち受講者名入りの受講証明書や領収書の発行もより容易に可能となった。<BR><B>【まとめと展望】</B>今回のシステムは,参加登録のみの単純なものであったが,担当者にかかる負担は少なかった。一部には有料の市販されたシステムもあるが,これと比較しても安価で自由度の高いシステムを構築することができたと考える。今後は研修会・講習会等の開催情報を入力することで,「開催案内ページ」「参加登録フォーム」「コンテンツ更新情報」といった必要なページが自動生成されるような,ユーザの利便性が高く,かつ,担当者の負担の少ないシステムの開発を目指したい。
著者
尾崎 将俊 田中 健康 佐藤 里佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,足漕ぎ車椅子Profhand(株式会社TESS)は,肢体不自由者の新移動機器として病院・施設で使用されている。関(2005)は,片麻痺者が足漕ぎ車椅子を使用することによって,歩行速度の改善と麻痺側下肢筋の筋活動量が増大することを示した。足漕ぎ車椅子は単なる移動機器ではなく,下肢機能に対する治療機器として考えることができる。また,江西(1994)は片麻痺患者の歩行自立には安定した体幹機能が必要と述べ,江連(2009)は臨床的体幹機能テスト(Functional Assessment for Control of Trunk:以下,FACT)で評価した体幹機能は片麻痺患者のADLと強い相関関係があったと報告している。足漕ぎ車椅子が,下肢筋力に加え体幹機能の改善に寄与するのであれば,より応用範囲の広い治療機器として用いることができると考えた。本研究では,足漕ぎ車椅子の利用が体幹機能に及ぼす影響について検討した。【方法】[症例]60歳代,男性。脳梗塞後右片麻痺。入院時,Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は,上肢III手指III下肢III。感覚は軽度鈍麻。著明なROM制限なし。筋緊張は麻痺側中枢,末梢ともに低緊張。座位・立位・歩行は一部介助。[実験計画]期間:100病日(入院後71日)から16日間。研究デザイン:反復型実験計画ABAB(A1:第1基礎水準測定期4日間,B1:第1操作導入期4日間,A2:第2基礎水準測定期4日間,B2:第2操作導入期4日間)。介入内容:A1:運動療法60分,B1:運動療法40分に加え足漕ぎ車椅子使用10分,A2:運動療法60分,B2:運動療法40分に加え足漕ぎ車椅子使用10分。[測定]各介入ごとに,FACT(点),座位における前方リーチ距離(cm)を測定。各セッション最終日にはShort form Berg Balance Scale(以下,SF-BBS)を測定。[分析]FACTおよび座位前方リーチ距離について,二項分布の確率を利用し,基礎水準測定期A1・A2のcelebration line(以下,CL)を決定。その上で,操作導入期B1・B2において,CLを上回る値について分析。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の了承を得た。研究への参加については,研究者が口頭で説明し同意を得た。【結果】FACTでは,B1・B2においてCLを上回る値は無かった(p=0.1)。座位前方リーチ距離では,B1の全ての値はCLを上回り(p=0.01),B2は4日目を除く値がCLを上回った(p=0.025)。FACTの平均値±標準偏差は,A1:9.3点±1.7,B1:13点±1,A2:13点±1,B2:14点±0であった。前方リーチ距離の平均値±標準偏差は,A1:38.8cm±3.8,B1:46.5cm±1.5,A2:44.8cm±1.2,B2:44.1cm±4.7であった。SF-BBSは,A1:16点,B1:19点,A2:19点,B2:21点であった。【考察】本研究においては,足漕ぎ車椅子使用によるFACTへの影響は認められなかった。FACTは,骨盤と体幹の分節的な動作課題が多い。足漕ぎ車椅子におけるパターン化した下肢交互運動であるペダリング動作のみでは,骨盤と体幹の分節的な運動は改善されず,FACTの得点向上には結びつかなかったものと考える。座位前方リーチ距離は,非介入期であるA1・A2に比べてB1・B2でCLを上回った。前方リーチ距離は,矢状面における座位バランスを反映しているが,運動の制御には下肢機能が関与する。関(2005)は,足漕ぎ車椅子使用によりBRS Iの片麻痺患者でも,麻痺下肢の筋活動誘発効果を有すると述べた。筋出力に関しては,浦川(2007)が,セミリカンベント式自転車エルゴメーターの場合に,バックレスト角度75°が股関節伸展筋出力増加に適していると述べた。足漕ぎ車椅子のバックレスト角度は70°であり,股関節伸展筋出力に適していると考える。このことから,座位前方リーチでは股関節周囲筋を主とした麻痺側下肢筋出力量の増加が,矢状面上の運動である体幹前傾の姿勢制御に影響を及ぼし,座位前方リーチ距離拡大に繋がったと推察する。また,SF-BBSは介入期であるB1,B2で改善傾向にあった。下肢機能改善は,SF-BBSにおいて測定される,立位における姿勢制御に反映されるためと考えた。本研究の結果は,足漕ぎ車椅子は体幹の選択的な活動には影響しないが,下肢の筋活動を促すことで,下肢機能を含めた体幹運動には寄与することを示唆する。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,片麻痺患者の足漕ぎ車椅子使用に関する特異的な影響を検討した点にする。治療機器として足漕ぎ車椅子を活用する場合の一助となると考える。