著者
田中 元浩
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.12, no.20, pp.47-73, 2005-10-20 (Released:2009-02-16)
参考文献数
61

本稿の目的は,畿内地域での古墳時代初頭土器群の成立と展開を把握し,そのうえで土器様式の構造や地域集団の抽出,地域集団間の関係の強弱を明らかにすることである。田中琢氏によって設定された庄内式土器は,当初考えられたような畿内地域通有の土器様式ではなく,その展開や分布に一定の偏在性が認められる。また資料の蓄積が一定程度に達した現在では,庄内式土器,布留式土器といった土器様式は単純な様相を示すものではなく,甕形土器・精製器種に複数の系統が存在することが指摘されつつある。以上の視点をもとに本稿では,畿内地域における古墳時代初頭前後に出現する庄内甕・布留甕・精製器種各群といった製作技術を共有する土器群の展開を,共通する時期の構成比率によって検討した。こうした分析の結果からは,新たに出現する庄内甕・精製器種B群といった土器群は中河内地域の中田遺跡群でその成立をみるとともに,その後の展開については中河内地域と,纒向遺跡を中心とする大和東南部,摂津・北山城・南山城地域に存在する拠点集落同士の交流をもとに,各地域へ展開していくことが明らかとなった。一方布留甕の成立については,各地域の庄内甕・精製器種B群の展開の中心となった集落において複数の分布の拠点が認められる。また細部の形状や技法等の検討からは,各集落での布留甕には型式的な差異が認められ,こうした違いは前段階の在地での庄内甕製作基盤の有無と山陰地域からの技術的影響の強弱が関係している。古墳時代初頭土器群の土器様式の構造については,庄内甕・布留甕・精製器種B群といった各土器群が胎土・展開時期・分布において各地域で複雑なあり方を示す。また,分布する庄内甕の特徴によって分布圏が形成され,さらに分布圏の内部で土器群の展開にみられる拠点集落とその周辺集落との間には,構成比率に中心―周辺関係が形成され多様な範囲や集落間関係が存在することが明らかとなった。