- 著者
-
田中 康寛
- 出版者
- 武蔵工業大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2006
架橋ポリエチレン(XLPE)を絶縁材料として用いるCVケーブルは交流高電圧用の送電ケーブルとして使用され、優れた絶縁性能とメンテナンスコストが低いことから、直流送電への適用が期待されているが、直流高電圧を印加すると、予期せぬ絶縁破壊が発生することから、高電圧直流送電には用いられたことがない。この絶縁破壊は空間電荷と呼ばれる電荷の蓄積現象によるものであると考えられてきたが、これまでは絶縁破壊と空間電荷を直接関係付ける現象は報告されていなかった。しかし近年になって、XLPEの原材料である低密度ボリエチレン(LDPE)に高電界を印加することで、多量の塊状空間電荷(パケット状電荷)が試料内部に蓄積し、局部的に電界が上昇し、絶縁破壊に至る現象を確認した。この現象を解析するために高電界を試料に印加でき、空間電荷分布を簡便に測定できるシステムを開発した。平成18年度はこの測定装置を用いてLDPE中の空間電荷分布を計測し、これまでの空間電荷挙動を再確認したとともに、LDPEにナノサイズの酸化マグネシウム(MgO)を添加することにより、同条件の電圧印加でもパケット状空間電荷が発生しないことを見出した。さらに、高温・高電界で空間電荷を測定できる測定装置を開発し、LDPEおよびナノサイズのMgOを添加したLDPEに高温で高電界を印加する実験を行い、MgOを添加した試料では、高温・高電界でもパケット状電荷が発生しにくいことなどを見出した。平成19年度は、バケット状電荷の発生モデルを数値的に解析するとともに、MgOをLDPEに添加することにより電荷の注入が抑制されるメカニズムとして、MgOとLDPEの誘電率の差が電気的ポテンシャルの井戸を形成し、その井戸に電荷が捕獲されることで、それ以上電荷が注入されないというモデルを考案し、その検証のためのシミュレーションと実験を行なうことで検証した。