著者
田中 悠也 川上 祐貴 久野 成夫 鷲澤 秀俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1252, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】Patellofemoral Pain Syndrome(膝蓋大腿疼痛症候群,以下PFPS)とは膝蓋骨後方または周辺に痛みを生じる疾患であり,整形外科的な膝の主訴で最も多い疾患の1つである。保存療法が第一選択とされており,変形性膝関節症への発展の可能性が示唆されている点から理学療法介入が重要な症候群である。PFPSの原因は内側広筋の筋機能障害や膝蓋骨の位置・トラッキング異常,股関節筋力の低下などが報告されており,これらに対する治療介入の報告は多いものの,治療の成否に影響する因子の報告は少ない。そこで本研究では,初期評価時の項目と1-2カ月後の理学療法治療の成否の関連を検討し,治療の成否に影響を与える初回評価時の因子を探索することを目的とした。【方法】対象は整形外科クリニックの外来に通うPFPS患者のうち,1-2カ月の理学療法を行った20名(平均年齢39.4±15.6歳,男性6名,女性14名)とした。PFPSの診断はCowan(2002)を参考に,1)歩行・階段・スクワット・走行・座位保持・膝立ちのうち少なくとも1つ以上で痛み,2)膝蓋大腿関節面の圧痛またはCompression Test,Clarke’s sign,伸展抵抗運動のうち1つで痛みが存在することを基準とし,除外基準は変形性関節症や関節内病変,腱疾患とした。初期評価時に性別・年齢・身長・体重・罹患期間の問診を行い,Visual Analogue Scaleを用いた1週間の最大の痛み(以下VAS-W)及び1週間の平均の痛み(以下VAS-U),質問紙票であるAnterior Knee Pain Scale(以下AKPS)の測定を行った。また,膝関節30°程度屈曲位のSkylineView(Laurin)におけるレントゲン画像からLateral Patellar Tilt,Lateral Patellofemoral Angle,Congruence Angleを算出した。治療の成否は介入後のVAS-W・VAS-U・AKPSの改善度より判断し,1)VAS-Wが2.0cm以上の改善,2)VAS-Uが2.0cm以上の改善,3)AKPSが15点以上の改善,のうち2つ以上を達成したものを良好群,その他を不良群とした。統計解析はJ STATを使用し,良好群と不良群における問診項目,初期のVAS-W・VAS-U・AKPS,VAS-W・VAS-U・AKPSの変化,レントゲン画像の比較を対応のないt検定で行った(有意水準5%)。【倫理的配慮,説明と同意】すべての被験者には研究に対する説明および同意を得た上で実施した(当院倫理審査委員会:承認番号240907F)。【結果】治療良好群は11名,治療不良群は9名であった。改善度は,治療良好群ではVAS-Uは4.0±1.1cm,VAS-Wは5.7±1.9cm,AKPSは23.6±10.4点に対して,治療不良群は0.7±1.5cm,2.1±2.6cm,6.7±6.4点であった。治療良好群では初期評価時のVAS-Wが7.9±1.4cmに対して不良群は6.5±1.2cmと有意に小さく,Lateral Patellofemoral Angleでは良好群は11.4±2.2°に対して不良群は15.2±4.6°と有意に大きかった。【考察】PFPS患者に対する1-2カ月の理学療法介入として,初期評価時のVAS-W(1週間の最大の痛み)が大きいこと,およびLateral Patellofemoral Angle(膝蓋骨の外側傾斜)が小さいこと,が治療成功への影響因子と示唆された。しかし,本研究では同一の治療内容および治療回数ではないため,今後の調査が必要である。また,PFPSは多因子性の原因と考えられていることから,今後は本研究で測定していない股関節筋力や下肢における異常動作などの他の因子の影響を行う必要が考えられた。【理学療法学研究としての意義】PFPSは保存療法が第一選択であり,多因子性の原因であるため,その治療には理学療法士の臨床判断に依存する割合が大きい。本研究によりPFPSの多因子の中でも重要な因子が明らかとなり,加えて予後予測の判断が可能となるため,本研究はPFPS患者に対し理学療法を行う上での一助となると考える。また,本邦においてPFPS研究は少なく,研究面においても,本研究は日本のPFPS研究を発展させていく上での一助となると考えられる。
著者
遠藤 恭生 田中 悠也 早川 庫輔 鷲澤 秀俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb1154, 2012

【目的】 当院において,10代におけるスポーツ障害患者の約4割は小学生である.その中でも,野球におけるスポーツ障害受診率は小学生全体の約3割と高く,その多くは野球肩,野球肘の診断を受けているのが現状である.一般的に野球肩・野球肘の発生頻度は投手と捕手に多いと言われている.今回われわれは,当院近隣にある少年野球チームに対し,メディカルチェック(以下MC)を実施した.少年野球選手をピッチャーまたはキャッチャー群とその他ポジション群の2群に分け比較検討し,ポジション別の身体特性を知ることを目的とした.【方法】 対象は,軟式少年野球3チーム58名の各選手に対し,事前アンケートとして学年・身長・体重・既往歴・現病歴・睡眠時間・食事内容・ポジション・投球側・打撃側・野球歴・その他のスポーツ歴を記入してもらい,MC当日は,理学療法評価として立位アライメントのほか,圧痛は肩関節・肘関節・膝関節・踵部に行い,関節可動域(以下ROM)の測定として,肩関節・前腕・手関節・股関節・膝関節・体幹に対し,投球側および非投球側の両側に実施した.スクリーニングテストにおいては,握力,母趾・小趾筋力,片脚バランス,立位四股テスト,しゃがみ込みテスト,体幹機能テスト,ブリッジテストを実施した.事前アンケートでポジションの記載があった51名のうち,ピッチャーまたはキャッチャーの選手19名をPC群,その他ポジションの選手32名(内野手15名、外野手17名)をO群の2群に分類し比較した.統計処理として,対応のないt検定またはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%未満とした.【説明と同意】 対象者および保護者・チーム関係者には,十分な説明を行い,同意の上で測定を行った.【結果】 ROMにおいて,投球側肩関節HFTではPC群109.2±12.0度,O群118.9±15.0度であり,投球側前腕回外ではPC群95.3±7.4度,O群100.8±10.5度,投球側股関節外旋ではPC群48.4±8.3度,O群55.8±10.7度といずれもPC群がO群より有意に低値を示した(p<0.05).スクリーニングテストにおいては,投球側握力ではPC群20.0±5.8kg,O群15.8±6.2kgとPC群がO群より有意に高値を示した(p<0.05).体幹機能テストではPC群がO群より有意に高い傾向を示し,投球側軸足の片脚バランスにおいても,PC群がO群より片脚バランス時の動揺が有意に少ない傾向を示した(p<0.01).また他の項目に関しては、有意差は認められなかった.【考察】 少年野球選手において,野球肩・野球肘の発生頻度は投手と捕手に多いと言われている.今回,われわれのMCの結果から,ピッチャーまたはキャッチャー選手の身体特性として,ROMにおいて,いずれも投球側肩関節HFT・前腕回外・股関節外旋が有意に低値を示した.スクリーニングテストでは,握力が有意に高値を示したほか,体幹機能テストでは有意に点数が高く,投球側軸足の片脚バランスにおいても有意に動揺が少ない傾向を示した.これは,ピッチャーまたはキャッチャーというポジションが,チームの柱になるポジションであるため,筋力・スキルが高い選手に任させることが多いためと思われる.しかし,投球側上下肢のROM制限を認めることから,身体的負担が大きく,これらが野球肩・野球肘の発生に関与する一要因になるのではないかと考える.今後は,MCを定期的に継続し,障害発生の予防に努め,選手のみならず保護者や監督・コーチへのセルフケアの指導や全力投球数の制限などの啓蒙をしていく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 ピッチャーまたはキャッチャー選手と,その他ポジション選手におけるポジション別の身体特性を知ることで,野球肩・野球肘の障害発生予防の1つの要因になることが示唆された.