- 著者
-
岡田 依里
田中 政光
- 出版者
- 横浜国立大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2004
本研究は、技術・知財の蓄積が大きいが、そのままでは成長が見込めない企業を対象とし、その技術・知財を新規事業創造に結びつけるメカニズムを、知財戦略経営との関係で追求することを目的とする。知財戦略経営の論点は、「開発の戦略的方向性」と「学習組織」である。その論点をふまえ、本研究では、従来とは異なる顧客機能と技術開発の組み合わせにより、新規事業を創造するメカニズムを考察した。検討の過程で、たとえば異種成膜を可能とする半導体製造装置のように、デバイスメーカーの文脈の観察と相互作用によるプロセスイノベーションと知財創造が、あるタイミングで大きな製品イノベーションにつながることが確認された。また、デバイスメーカー側では、内製化へ向けた対処や新しい形のソフトウェア知的財産が自社利益の確保に必要であることも発見された.公的機関の基礎性の強い知的財産を事業プロジェクトに結びつけることをドメインの1つとするベンチャー企業の場合、知的財産を要素分解の上、上位概念に統合して発明を操作化し、新たな用途を生み出して事業化に結びつけている。科学・技術の進化は独立になされるが、発明概念の分解・統合がそれを用途に結びつけるポイントとなっている。こうして知的財産は、企業のビジョンと中核能力をふまえた方向性を示し組織学習に組み込まれて価値創造に結びつくのであり、解析的実証においても、技術・知的財産の蓄積が組織内の他の知的資産と結合しながら価値創造へと結びつくことが観察された。効果は、イノベーションをプロセスでみたときの観察から、Cohen, M.D., J.D.March and J. P.Ohlsen[1972]から導き出した、ゴミ箱モデルと整合する。このモデルの基本的発想は、課題設定の曖昧さや複雑さ、将来予測の困難性にあり、組織内過程をとおして参加者は、自分たちが何をしようとしているのか、の解釈に到達する、という命題である(田中[1990])。こうしたプロセスは、Simon[1957]にいう、不完全情報にもとづく人間の意思決定、あるいはAlison[1971]にいう、「重要な問題で完全に組織の1つの領域に属する問題はほとんどない」という現実に由来する。こうしたプロセスに際し、現在多くの企業はステージゲートへの知的財産部の参加、部局横断的判断、ポートフォリオ経営などにより、曖昧さと将来予測困難性の中で、知的財産でみた自社の中核能力が活かせる方向性を示し、異質なアイデアを組み込み、ペットプロジェクトやゆがんだ形でのゲートキーパーを廃するよう留意している。