著者
芦田 貴司 小野 圭昭 田中 栄士 上杉 直斗 村岡 正規 小正 裕
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.123-133, 2010

<p>【目的】近年,誤飲・誤嚥事故を目的として嚥下機能の解明,摂食・嚥下障害原疾患の予防および治療法の確立等の研究がおこなわれているが未だ十分ではなく,摂食・嚥下障害をもつ患者や高齢者では日々誤飲・誤嚥事故のリスクに直面している.そこで,阪神地区を調査対象として,市消防本部への調査を実施して誤飲,誤嚥事故の実態を明らかにし,その調査結果を詳細に分析することにより窒息事故を回避する一助とすることを考えた.市消防本部への調査を実施し,3 カ年の全救急業務の中から誤飲・誤嚥に関する事案を抽出して,その内容を検討した.</p><p>【方法】都市圏のベッドタウンのひとつである阪神地区を対象に,平成16 年から18 年までの3 カ年に各市の消防局・消防本部に救急要請があった全救急事故のうち,一般負傷の中から,誤飲・誤嚥に関するすべての事案を抽出し分析をおこなった.調査内容は,①性別,②年齢,③傷病程度,④覚知時刻,⑤事故概要,である.</p><p>回収したデータをもとに誤飲,誤嚥とその他の3 群に分類した.この調査は,平成19 年2 月におこなった.</p><p>【結果】今回の調査対象とした地域の救急車要請件数は年平均261.7 件であった.そのうち,誤飲件数の割合は年平均15.8%,誤嚥件数の割合は年平均75.5%,その他の割合は年平均8.7% であった.</p><p>誤嚥件数では,男女間に有意な差が認められた.年齢別発生件数では,誤飲は若年層に多く,誤嚥は後期高齢者でもっとも多かった.傷病程度は誤飲,誤嚥事故とも軽症がもっとも多かった.しかし,誤嚥事故の中には,誤飲事故ではみられなかった重症や死亡例が認められた.覚知時刻は,誤飲事故のもっとも多く発生したのは20 時台で,誤嚥事故は12 時台であった.原因物質は,誤飲事故でもっとも多かったのは薬品で,誤嚥事故ではパンであった.</p><p>【考察】それぞれの食事形態や食べ物の特性を理解して食べることは,窒息を防止する効果的な方法である.また,家族との同居の場合には,家族に救急システムの指導をおこなうことや,窒息を解除する方法を指導するなどの啓発活動の重要性が示唆された.</p>
著者
芦田 貴司 小野 圭昭 田中 栄士 上杉 直斗 村岡 正規 小正 裕
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.123-133, 2010-08-31 (Released:2020-06-26)
参考文献数
28

【目的】近年,誤飲・誤嚥事故を目的として嚥下機能の解明,摂食・嚥下障害原疾患の予防および治療法の確立等の研究がおこなわれているが未だ十分ではなく,摂食・嚥下障害をもつ患者や高齢者では日々誤飲・誤嚥事故のリスクに直面している.そこで,阪神地区を調査対象として,市消防本部への調査を実施して誤飲,誤嚥事故の実態を明らかにし,その調査結果を詳細に分析することにより窒息事故を回避する一助とすることを考えた.市消防本部への調査を実施し,3 カ年の全救急業務の中から誤飲・誤嚥に関する事案を抽出して,その内容を検討した.【方法】都市圏のベッドタウンのひとつである阪神地区を対象に,平成16 年から18 年までの3 カ年に各市の消防局・消防本部に救急要請があった全救急事故のうち,一般負傷の中から,誤飲・誤嚥に関するすべての事案を抽出し分析をおこなった.調査内容は,①性別,②年齢,③傷病程度,④覚知時刻,⑤事故概要,である.回収したデータをもとに誤飲,誤嚥とその他の3 群に分類した.この調査は,平成19 年2 月におこなった.【結果】今回の調査対象とした地域の救急車要請件数は年平均261.7 件であった.そのうち,誤飲件数の割合は年平均15.8%,誤嚥件数の割合は年平均75.5%,その他の割合は年平均8.7% であった.誤嚥件数では,男女間に有意な差が認められた.年齢別発生件数では,誤飲は若年層に多く,誤嚥は後期高齢者でもっとも多かった.傷病程度は誤飲,誤嚥事故とも軽症がもっとも多かった.しかし,誤嚥事故の中には,誤飲事故ではみられなかった重症や死亡例が認められた.覚知時刻は,誤飲事故のもっとも多く発生したのは20 時台で,誤嚥事故は12 時台であった.原因物質は,誤飲事故でもっとも多かったのは薬品で,誤嚥事故ではパンであった.【考察】それぞれの食事形態や食べ物の特性を理解して食べることは,窒息を防止する効果的な方法である.また,家族との同居の場合には,家族に救急システムの指導をおこなうことや,窒息を解除する方法を指導するなどの啓発活動の重要性が示唆された.
著者
田中 栄士 小野 圭昭 権田 悦通
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.152-160, 2001-06-25 (Released:2017-04-20)
参考文献数
26
被引用文献数
5

本研究は水嚥下時の口腔期から咽頭期への嚥下動態を経時的に観察し, 口腔期から咽頭期にかけての嚥下機能を明らかにすることを目的とした, 嚥下機能に問題のない健康な成人男性8名を被験者とした各被験者に5から50mLの間で5mLごとの異なる量の水をランダムに口腔内に含ませ素早く嚥下する一回嚥下, ならびに, 嚥下量, 嚥下速度とも被験者任意で試行する連続嚥下を行わせ, 下顎運動と口腔および咽頭の嚥下圧を同時記録し, 口腔内圧, 中咽頭圧, 下咽頭圧ならびに, 各最大圧と下顎運動との時間的関係について分析を行った. その結果 1. 一回嚥下量の増加に伴って, 口腔内圧には差は認められず, 中咽頭圧ならびに下咽頭圧は有意に上昇した. 2. 一回嚥下では嚥下量の増加に伴って, 口腔期から咽頭期への移行時間を表す閉口点と最大中咽頭圧点の時間差ならびに最大口腔内圧点と最大中咽頭圧点の時間差に有意な減少が認められた. 3. 一回嚥下において, 大きな嚥下量(35〜50mL)で最大口腔内圧と最大中咽頭圧の発生時間に逆転現象がみられた. 4. 連続嚥下の各サイクルは, 最初と最後を除いて一回嚥下の動態と類似していた. 5. 嚥下量の近似した一回嚥下と連続嚥下を比較すると, 下顎運動との時間的パラメータにおいて連続嚥下の方が有意に小さな値を示した. 以上のことから, 嚥下運動は嚥下量や嚥下様式の違いによって一定の特徴を示し, 特に下顎運動と嚥下圧の関係は嚥下様式ごとに, それそれの協調活動を持つことが明らかとなり, 嚥下評価に下顎運動と嚥下圧を同時に測定することが有用であることが示唆された.