- 著者
-
田中 正隆
- 出版者
- Japan Association for African Studies
- 雑誌
- アフリカ研究 (ISSN:00654140)
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, no.65, pp.1-18, 2004-12-22 (Released:2010-04-30)
- 参考文献数
- 34
南部ベナンには多様な神々を物質にして祀る信仰 (ヴォドゥン) が広がっている。ヴォドゥンとは神格化された祖霊であるが, 人々はそれを物質に置き換える。こうした神である物質を, 人々は日常品などの単なるものエヌenuと区別してヌワヌnuwanu (手を加えたもの) と説明する。こうしたもの一神は, 歴史を通じて人々が他地域から購入することで移動や混合がすすんできた。それは現在にいたるまで続いており, そうした神の流通には伝統医が深く関わっている。伝統医 (ボコノ) にとってこれは信仰活動でありつつ, 経済活動の一つでもある。本稿は伝統医の活動のうち, 薬, 呪物, 霊でもある「もの」の売買にかかわる面に着目し, 彼らの経済原理を明らかにする。近年の人類学におけるモダニティ論では, しばしば従来商品となることはなかった (個別化された) ものまでが売買される状況をさして, オカルトや過剰な自由主義経済化として解釈する。しかしアジャ社会における物質化された神は個人の要求に応えるという意味で個別的でありながら雑多な商品によって構成され, 貨幣と交換される。これらは個別性―商品性を対極におく, 物質文化論や交換論の枠組みでは理解できない。そこで本稿では伝統医の経済事情と作成儀礼, 彼らの語りを分析するなかで, 人々がむしろ作成過程と取引の持続性, 反復性を重視していることに注目した。このような取引にたずさわることはボコノにとって重要な信仰実践である。神々をめぐる取引はきわめて貨幣―商品経済的でありながら, 利潤の最大化が唯一の目的ではなく, 社会関係の構築を重視することを, 本稿は明らかにする。