著者
田中 江里華
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.3-12, 2021-02-26 (Released:2021-02-26)
参考文献数
7

日本におけるスポーツビジネスの発展は重要な課題であり,野球単体で黒字化が難しいプロ野球業界では近年マーケティングの活用が進められてきた。一方で,広島東洋カープは12球団中唯一親会社を持たず45年間黒字を継続している。本研究は,その長期的競争優位の因果構造を,JCSIの枠組みを用いてロイヤルティ形成という視点から考察する。読売ジャイアンツ,横浜DeNAベイスターズを比較対象とし,因子分析と共分散構造分析で定量的に研究した。その結果,各ファンが評価する球場体験,球場サービスの便益の違いが浮き彫りになり,カープファンは観戦を通したファン同士の繋がりと自己実現を評価し,成績に左右されない顧客満足が実現できている事がわかった。さらに,三球団に共通して試合に関する要素が顧客満足やロイヤルティに強く影響する一方,試合と関連の低い球場体験は顧客満足に影響すると言いきれない事と,ロイヤルティが同化意向,協力的行動に影響している因果構造が明らかとなった。顧客の求める価値を理解し,主観的・客観的な便益を強化することが,企業と顧客の高次で長期的な関係性に寄与すると示唆された。