著者
水野 学 小塚 崇彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.6-21, 2019-09-27 (Released:2019-09-27)
参考文献数
48

本稿の目的は,リード・ユーザーとメーカーの共創型製品開発について議論することである。ユーザーイノベーション理論の実務分野への応用は近年,ユーザー・コミュニティを活用した方法の研究が活発になっている一方,かつて主流であったリード・ユーザー法に関する研究はあまり進展が見られない。しかし高い革新性を持つ製品開発において,リード・ユーザー法はコミュニティ活用型よりも有効に機能する可能性がある。そこで本論文では,フィギュアスケートのトップクラスの選手による用具開発の事例を,リード・ユーザー論および情報の粘着性概念を手がかりに解釈することで,リード・ユーザーとメーカーによる共創型製品開発の意義と課題について明らかにする。
著者
松井 剛
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.111-124, 2019-01-17 (Released:2019-01-17)
参考文献数
13

このケースでは,1974年から2015年まで東京の渋谷と原宿で営業した伝説的な雑貨店,文化屋雑貨店に注目する。雑貨とは,どこまでから雑貨であり,どこからが雑貨ではないかという範囲設定が分からない不思議な製品カテゴリーであるが,現在では雑貨店が日本各地で見られるようになった。この日本独自の製品カテゴリーを創造したのが,文化屋雑貨店店主・長谷川義太郎である。長谷川は「雑貨」という概念を通じて,消費者のみならず,ファッション・デザイナーや雑誌編集者など内外のクリエイターに対して,現在に至るまで多大なる影響力を与えてきた。このケースでは,本人によるオーラル・ヒストリーに基づいて,長谷川が文化屋雑貨店を通じて実現した市場創造について見る。
著者
芳賀 宏一郎 恩藏 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.80-94, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
20

プロダクト・デザインはビジネスにおける重要なテーマであり(Luchs & Swan, 2011),競争優位の重要な源泉であると言われている(Noble & Kumar, 2010)。このデザインを重視し,デザインと機能の融合により「美しい製品」の開発を行い,市場で高い評価を得ている企業がある。北九州市小倉に本社を置くTOTO株式会社である。2017年にネオレストシリーズのフラッグシップモデル「ネオレストNX」を開発し市場に展開しているが,このネオレストNXは「オブジェ」と言っても過言ではない。そこで,TOTO(株)の空間と調和するデザインと「ものづくり」におけるマーケティング展開を調査した。この結果,TOTO(株)のマーケティングの卓越性は,「デザイン・ドリブン・イノベーション」と「デザインのHolistic視点と機能の融合」の2つにあると考えられる。
著者
平木 いくみ 外川 拓
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.35-46, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
28

身体化認知理論への注目により,感覚が消費者行動に及ぼすさまざまな影響が明らかになっている。本稿では,製品の希少性知覚に対して視覚的重さが及ぼす影響を検討する。製品パッケージのカラー(実験1)と製品画像の掲載位置(実験2)を操作した2つの実験を通して,視覚的重さの経験は,当該製品に対する希少性知覚へ影響を及ぼすことが明らかにされた。さらに,視覚的重さが希少性知覚へ及ぼす影響は,製品間の陳列スペースが広いときのみ生じることも示された。希少性は消費者を製品に惹きつける強力な要因である。重さという感覚経験と希少性知覚との関係を明らかにした本研究は,製品開発に携わるマーケターや店頭マーケティングに携わる小売業者に対して多くの示唆を提供している。
著者
曽山 哲人 栗木 契
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.33-46, 2018 (Released:2019-05-31)
参考文献数
18

本論文では,エフェクチュエーションを支える制度を,組織としていかに構築していくかを探索する。そのために本論文は,株式会社サイバーエージェントという社内スタートアップの創出に長けた企業が,その社内制度をどのような試行錯誤のなかから編み出してきたかを,同社の社内資料をもとに振り返る。その結果として見えてくるのは,サイバーエージェントでは,大量の提案を生み出す制度,より多くの社員のあいだに決断経験の機会を広げる制度,スタートアップの撤退ラインを明文化した制度,そして非金銭的報酬を重視した制度の充実が,その社内でのエフェクチュアルな行動をうながしているという関係である。
著者
久保田 進彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.52-66, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
34
被引用文献数
1

社会のデジタル化が急速に進展しつつある現在,そこにおけるブランド戦略のあり方について大局的に検討することは,非常に重要な課題である。しかしそのためには,まずデジタル化によって消費環境がどのように変化するかを的確に認識しておく必要がある。こうした考えに基づき,本研究ではデジタル社会における消費環境について検討していく。具体的には,まずいくつかの研究をレビューしながら,デジタル社会における消費環境の動向について確認する。つづいてBardhi and Eckhardt(2017)によって提示された「リキッド消費」について説明する。そしてさらにリキッド化が社会に浸透している様子を,通時的データを用いて観察する。なお本研究における議論はKubota(2020)へと引き継がれたうえで,こうした消費環境の変化に対応したブランド戦略のあり方へと展開されていくことになる。
著者
石井 裕明
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.21-38, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
62
被引用文献数
1

店頭におけるパッケージのコミュニケーション効果には古くから期待が寄せられてきた。しかしながら,先行研究を概観すると,パッケージに掲載すべき情報量に関する議論はそれほど進められていないことが分かる。そこで本研究では,情報量の異なるパッケージへの消費者反応を検討した。その際,制御焦点による調整効果に注目し,消費者の個人特性や製品特徴によって生じる違いについても議論した。アイ・トラッキングによって視線を測定した実験1では,予防焦点の消費者においてパッケージに対する注視回数が多いことを確認した。実験2と実験3では,情報量の増加によって生起する情報過剰感が促進焦点の消費者において製品理解や製品評価に負の影響を及ぼすことを指摘した。実験4では,促進焦点に基づく訴求内容の広告にパッケージが掲載された場合,情報過剰感の高いパッケージへの評価が高認知欲求の消費者において低下することを示した。
著者
吉岡(小林) 徹
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.21-37, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
54

デザイナーが商品開発の上流工程から関わること,とくに,デザイナーが他の職能組織の活動に積極的に関与していくことは,製品・サービスのイノベーションの実現につながるのだろうか。本研究は,デザイナーによる他の職能組織の活動への関与の一つとして,技術開発への関与が,技術開発の質を高め,かつ,製品の質を高めているのかを,市場で成功を収めた事例の分析と,国際的なデザイン賞受賞製品90製品の調査により検証した。その結果,デザイナーの技術開発の関与は,①新たな要素技術を着想し,新規な製品コンセプトを実現する,②技術的課題を設定するか,技術開発チーム内での共有を促し,技術者の開発効率を高める,③他組織の技術を橋渡しし,新たな技術を生み出す,のいずれかの形で高い質の技術を生み,かつ,製品自体の質を高めていたことが確認できた。これらはデザイナー固有の寄与とまでは断言できないが,デザイナーの強みが生きた機能組織間連携の効果であると考えられる。
著者
金 春姫
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.106-118, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)

このケースでは,2013年に創業した名創優品産業に注目する。日本発ファストファッションデザインをコンセプトに,グローバル本社は東京銀座にあるとしながら,実質上は中国企業である。中国で空白だった格安雑貨ショップのビジネスモデルを作り上げ,最近は日本ブランドとして積極的に海外進出を進めている。本稿では,この中国発の日本ブランドが作られた経緯を整理する。
著者
岩下 仁
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.63-79, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
78

これまで,市場志向と同次元に位置づけられる代替的志向性に関する研究は個別に展開されてきたため,包括的に扱った研究はほとんど取り組まれていない。それゆえ,市場志向の代替的志向性にはどのようなものがあるかについて網羅的な整理がなされておらず,様々な代替的志向性がマーケティング変数にどのようなインパクトをもたらすかについて明らかにされていない。本研究では,代替的志向性に焦点を当て,それらに関する先行研究についてレビューを実施している。製品志向,販売志向,技術志向,リレーションシップ志向,サービス志向,ブランド志向,イノベーション志向,CSR志向,デザイン志向,学習志向という10つの志向性について包括的に整理するとともに,各志向性の研究段階を明らかにしている。
著者
岩本 明憲
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.89-103, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
38

本研究の一義的な目的は,価格戦略理論の一画を成す価格変更に関連して,既存研究の問題点を整理・指摘したうえで,短期の値上げ及び値下げに加えて,その延長線上に実現する長期の高価格戦略及び低価格戦略を全般的な価格変更戦略として包括し,これらの多様な価格引き上げと引き下げを識別・整序する包括的な理論的フレームワークを提示することである。この目的を果たすべく,まずは価格変更に関する既存研究をレビューすることで本研究の射程がこれまでの価格変更研究をベースとしながらも,それを拡張・発展させる内容であることを確認する。次にプロスペクト理論を用いて,短期と中期の価格変更を識別し,長期かつより高次の価格変更戦略として,高価格戦略と低価格戦略を位置づける。それを踏まえて,留保価格と販売価格の差異,そして価格変更のためのコスト及びそれらの変化に着目し,四つの短期・中期の価格変更及び長期的に実現する八つの高/低価格戦略を分類・識別する理論モデルとそれに該当する事例を提示する。
著者
田中 洋
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.7-20, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
34

本稿は,ブランドと想像力について,想像力とは何かを問うとともに,ブランドと想像力について新たな研究パラダイムを構築するための消費者行動モデルを提案する理論的論文である。研究レビューから,想像力が重要な概念とされながらも,マーケティング論ではあまり扱われてこなかったこと,諸学での想像力についての考察で共通していることとして,想像力が人間の行為として重要であること,感情・思考・感覚・知覚・記憶などと関連しながら,同時にこれらを統合する力として働いていること,想像力が人間特有の遺伝形質であり,脳神経科学から再帰性という概念を用いることによって想像力の在り方がよりよく理解できることなどを明らかにした。そのうえで新たなブランドの定義を示したうえで,ブランドと想像力についての新たな研究パラダイムを提案して実証研究への道筋を示した。
著者
竹内 亮介
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.39-51, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
23

消費者は,広告を回避する傾向にあるため,広告回避は,広告主や広告会社にとって最も深刻な懸念事項の1つである。広告回避に関する既存研究は,広告に露出した消費者が,完全広告視聴・不完全広告回避・完全広告回避の中からいずれかを選択する可能性を暗示してきたものの,なぜ彼らはそのような選択を行うかという問いに解答を与えることができていない。そこで本研究は,制御焦点理論に依拠したうえで,上記の問いに解答を与えようと試みる。より具体的にいえば,上述した3つの行為を巡る消費者の選択は,制御焦点や広告情報の訴求点から影響を受けるという仮説を導出する。本研究の知見は,(1)促進焦点の消費者は,広告情報がポジティブ(/ネガティブ)な結果に関する情報であるならば,完全広告視聴(/不完全広告回避)を選択する点,(2)予防焦点の消費者は,ネガティブな結果に関する広告情報の有無を制御参照と見なす場合,広告情報がポジティブ(/ネガティブ)な結果に関する情報であるならば,不完全広告回避(/完全広告視聴)を選択する点,および(3)予防焦点の消費者は,努力の有無を制御参照と見なす場合,完全広告回避を選択する点である。
著者
井上 滋樹
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.7-20, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
17

途上国の貧困層向けに商品を販売することで貧困層の生活向上を促そうという「BOPビジネス」への取り組みが日本企業でも進んできた。途上国の富裕層を対象としたマーケティングに多くの経験をもつ日本企業にとっても「BOP」は未経験の対象者であるため,どのような方法で彼らの的確なニーズを把握することができるかわからないケースが多い。また,「BOP層」の定義は,Hart and London(2011)によると1人当たり年間所得が3000ドル以下の世帯を指し40億人とされているが,そもそも40億人もの多様な生活者をひとくくりに分類するのはマーケティング的にはありえない。「BOP」をビジネスの対象としてみるならば,その全体像をみるのではなく,住んでいる地域や文化,収入などを特定し,そのマーケットと生活者の実態を明らかにする必要がある。この論文では,Prahaladが「BOP」に着目してから20年を経た今日において,そもそも「BOP」をどう捉えたら良いかを整理した上で,具体的にインドネシアの特定地域に住む「BOP層」を対象にした調査から生活者の具体像を明らかにする。さらに,「BOP層」向けの新商品開発のために実施した調査手法を考察し,「BOP層」のニーズ把握のために開発した「デザイン思考を活用した潜入体験型リサーチ手法 DIVE(Diversity Inclusive Visionary Enhancement)」を示す。
著者
河股 久司 守口 剛
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.125-136, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
8

近年,データを活用したマーケティング戦略を行う企業は増加の一途をたどっている。顧客の理解のために,顧客の製品利用に関するデータを活用した事例も存在する。本稿では,顧客の製品利用データを活用して効率的な顧客維持活動を行っているリコーに焦点を当てる。リコーは,「@Remote」と呼ばれる複合機の利用に関するデータ収集システムを活用し,効率的な顧客維持活動を行っている。インタビュー調査を通じて,複合機利用データを活用した既存顧客維持活動の成功の背景に,それまで属人的であった営業担当者のノウハウや知識が活かされていることなどが明らかとなった。このことは,データの利活用に際し,データと顧客をつなぐ架け橋となる営業担当者の役割の重要性を示唆している。
著者
小野 譲司 酒井 麻衣子 神田 晴彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.6-18, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
26

サービス分野におけるカスタマイゼーションは,従来は人間が行っていたサービス活動をテクノロジーに代替する動きが進みつつある。人間による柔軟性とテクノロジーによる標準化のバランスをどう取るかは,現代のサービス設計における重要な課題である。本研究では,人間によるサービスとテクノロジーベースのサービスの経験が,顧客のサービス品質評価に与える影響について実証研究を行った。その結果,どちらのサービス経験を選択するかによって,顧客期待が品質評価に与える影響と,接客サービスが品質評価に与える影響が異なること,顧客の経験値の違いによって効果が異なることも明らかになった。最後にサービス・カスタマイゼーションに関する実務的示唆と今後の課題を示した。
著者
中村 世名
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.97-105, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
37

伝統的にマーケティング研究は競争を回避すべき対象と見なしてきた。しかし,激しく,素早い競争行動によって特徴づけられる今日の環境を踏まえると,競争が不回避であるという前提のもと,競合企業との競争に勝ち続けるために必要な要因を探究する新たなマーケティング研究が求められるであろう。本論は,そのような研究を「競争志向型のマーケティング戦略研究」と呼称し,競争志向型のマーケティング戦略研究が依拠すべきフレームワークを検討した。分野横断的なレビューの結果,オーストリア経済学をルーツとする競争ダイナミクス・ビューが競争志向型のマーケティング戦略論の依拠するフレームワークとしてふさわしいことが特定化された。また,今後の研究の方向性として,競争ダイナミクス・ビューの知見に(1)顧客との関係性,(2)流通業者との関係性,(3)ポートフォリオの視点を加えた研究を行うことによって,新たな示唆を提供できることが指摘された。