- 著者
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田中 玲奈
- 出版者
- 昭和大学
- 雑誌
- 研究活動スタート支援
- 巻号頁・発行日
- 2010
本研究の目的は,エナメル質初期脱灰病変に対して人工材料のみを添加するのではなく,潜在的な石灰化能を向上させることにより本来の歯質を回復することである.石灰化処理を行ったエナメル質は,その耐酸性と物理的強度が重要である.齲蝕や欠損のない健全な天然歯エナメル質試料に35%過酸化水素とハロゲンランプ照射によるIn-office Power Bleachを行い,人工唾液を作用させた後,脱灰液に2週間浸漬し,エナメル質の溶解性を評価した.溶解性は,デスクトップ型のマイクロCTを利用した非破壊検査により,1つの抜去歯から任意のボリュームで複数の仮想サンプルを抜き出すことができるため,エナメル質に物理化学的な変化を加えずに,ミネラル体積の変化や結晶度を経時的に測定することができる.また仮想サンプルは数値上全く同一形状であり,機械的に作成したものよりも精度が高く,データの信頼性や再現性も確保することができる.未処理のエナメル質(Control),人工唾液を作用させながらHome Bleach(HB)した後脱灰したエナメル質,In-Office Power Bleach(OB)した後脱灰したエナメル質をマイクロCTによって分析し,病変部のミネラル分布の変化を測定し比較した.HB試料とControlにおいて脱灰によるミネラル体積の減少が顕著であったのに対し,OB試料では脱灰後のミネラル体積が増加した.エナメル質の密度は,表面からエナメル象牙境に向かって傾斜的に低下する.高濃度の過酸化水素は硬組織に対しての浸透性が高く,エナメル深部の低密度層で相対的に濃度が上昇する.深部に貯留した過酸化水素はハロゲンランプ照射によりラジカルを発生し,深部から表層にかけて電気勾配が発生すると考えられる.低密度層で電荷が生じることにより,人工唾液中でエナメル深部の選択的石灰化が,はじめて可能になった.さらに本研究から,石灰化処理を行ったエナメル質の耐酸性が明らかになった.