- 著者
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甲斐 光洋
田中 紘道
荒木 懸喜
箕田 和弘
川口 栄子
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.GbPI1474, 2011
【目的】当院リハビリテーション科(以下、リハ科)では、ヒヤリ・ハット報告書提出件数は2008年度20件、2009年度43件であったが、2010年4月から10月の件数は39件と増加傾向にある。早期リハ開始、患者の高齢化および重症化、職員数の増加により臨床経験年数3年未満の職員が全体の約30%(5年未満では50%)を占めるなど、職員教育の質的・人的問題の対応が必要になっている。これまでは、病院全体での学習(年2回)と職場内学習(年2回)を行ってきたが、今年度は医療安全室の協力を受け、危険予知トレーニング(以下、KYT)および急変時対応についての学習会を開催し、職員の意識向上と業務改善の取り組みを試みた。<BR>【方法】(1)KYT(事例を通してのKYT):実際のヒヤリ・ハット報告から事例を7例選び、それらに対してグループで討論を行い、発表を行った。学習会後アンケート調査を実施した。(2)急変時対応学習:1.急変時対応についての院内マニュアルの学習、2.症状別対応の学習(6種類の症状別フローチャートを使用)、3.1次救命処置(BLS:basic life support)の学習<BR>【説明と同意】本研究は当院倫理委員会および医療安全推進委員会において承認同意を得ている。<BR>【結果】KYT後のアンケート調査では、KYTに対しての「理解が深まった」が24名(96%)、「少しわかった」が1名(4%)、「理解しにくかった」が0名(0%)であった。また、日常業務において役立つかどうかの質問に対して、「必要と思う」が24名(96%)、「必要と思うが難しい」が1名(4%)、「あまり役立たない」が0名(0%)という結果となった。<BR> 急変時対応については、既存のマニュアルについての学習と新たに症状別のフローチャートを作成し対応の流れや注意事項の確認を行った。その後、BLSの実演を行い手順の確認を行った。以上の学習から業務改善の取り組みは次の3項目とした。(1)緊急時の連絡システム:発生時の連絡方法をいつでも誰でもがわかるようにするために、職場内に「ドクターハート」の運用手順の設置と全ての電話機に依頼時内線番号をシールで貼り表示した。(2)医療安全対応のポケットカード作成:カード形式にて「119番通報」(外出リハ・家屋訪問時用)、「心肺蘇生法」、「意識障害レベル」、「運動療法中止基準」の4種類のマニュアルおよび基準を作成し、白衣の胸ポケットに携帯しいつでも活用できるようにした。(3)定期的な学習会の開催:職場内学習会の時間や職場会議の時間を利用して継続的な学習を行っていく。<BR>【考察】当院リハビリテーション科では、「ヒヤリ・ハット報告書」の提出および報告は定着してきていたが、その報告書を事故防止に十分に活用できていないのが現状であった。今回、医療安全推進室の協力を得て、実際の「ヒヤリ・ハット報告書」から事例を選びKYTを行えたことは、報告書を有効に活用すると共に職員の医療安全に対する意識向上にも役立つものであった。KYTでは、日常の診療場面においていくつものリスクが潜んでいることを再確認できる機会となった。各個人の危険予知能力を高めることが、組織として集団としての対応能力の向上にもつながると考えられるため、今後も継続した取り組みとしていきたい。急変時対応については、不安を抱えている職員が多くみられたため、学習会を通して不安の解消を図ったが、経験と実践が乏しい職員が多いため改善項目の取り組みを実践していくことが重要である。改善項目の実践を通して、今後のヒヤリ・ハットの状況や職員の意識がどう変化していくかを検証していく必要性がある。リハビリテーションを実施していく中でのリスクには、急変の他にも転倒や外傷、感染の問題など様々な課題があるため、それらに対応した職員教育および業務改善の取り組みも同時に行っていくことが今後の課題である。また、当施設および職員個人が、医療安全の必要性を施設および自分自身の課題と認識し、医療安全体制の確立を図り、安全な医療の遂行を徹底することが最も重要である。<BR>【理学療法研究としての意義】日本人は一般的に危機意識が欠如しリスク管理が定着しないといわれているが、安全な医療を構築するためには、常に「事故はいつでも起こりうる」「人は過ちをおかす」という危機意識をもち、業務にあたることが重要である。そのためには、今回のような学習および業務改善の取り組みを積み重ねていくことが、「危機意識」をもつための意識改革につながると思われる。そして個人の意識改革とともに医療機関として組織的・系統的な安全管理の構築を追求していきたい。<BR>