著者
田口 則良
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.12-22, 1978-03-30

現在および将来の社会生活を過ごすために「学び方能力」の育成は必須である。この能力は,特にBrunerが提唱した「発見学習」によって獲得させることができる。発見学習とは基本的内容を観察-予想-実験(発見)・検証のプロセスで学習者自身に発見させる仕方である。 この授業スタイルは抽象能力や既有知識,先行経験の乏しい学習者には適用が難しいとされている。しかし,授業は指導内容,方法との相対的関係で成立するものであるから,能力に合った指導内容を設定して,学習者の自発性だけに頼らず,授業者が積極的に働きかけたり,援助したりするならば,これらの学習者にも必ずしも適用が不可能ではないと思われる。 本研究はこのような観点から構築された発見型授業が精神薄弱児に適用可能かどうかを検討するものである。対比される授業スタイルとして説明型授業を構成する。これは観察-示範-実験・確認のプロセスで進められる授業者主導型スタイルである。 被験者は小学校特殊学級27名で,I.QとL.Aが釣合わされた2グループに分けられ,発見型と説明型授業を受ける。授業者は2名で始めにひとりは1グループの半数に発見型授業を,もうひとりは他のグループの半数に説明型授業を次に残りの半数にもう1つの型の授業をそれぞれ行う。指導内容は理科教材で「磁石」を取扱い,第3時までを2授業スタイルにより,第4時は共通の授業スタイルによりおもちや作りの作業課題をする。評価に関しては4名が授業の事前,直後,事後(1か月後,6か月後)にわたって知識,転移テストを聴取,授業中の意欲,探究的思考スタイルを評定する。 結果は次のとおりである。 (1) 授業者の発言内容は両授業スタイルの特徴を示す方向で異なる。発見型に多いカテゴリーは,ヒントを与える,課題意識を持たせる質問,考え方を受容する,であり,説明型に多いカテゴリーは,知識を与える,確認する,である。 (2) 知識問題の習得率(直後テスト/事前テスト)では両授業スタイル間に差が見出されない。しかし,1か月後の把持率(1か月後の事前テスト/直後テスト)では発見型が顕著によい。その効果は6か月後では消失している。 (3) 転移問題の習得率(直後テスト/事前テスト)は両授業スタイル間に差はない。これは転移問題と知識問題が類似していたためである。 (4) 自発発言数は第1時より,第2,3時で発見型が増加している。 (5) 第4時の授業中に測定された探究的思考スタイルは種々の観点から分析されたが,どれも差は見出せない。 (6) 習得された知識と矛盾する事例を観察させてその反応から信念を分析したところ,両授業スタイル間に差は見出されない。