著者
田口 速男
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

おもにアミノ酸残基置換による解析から、Lactobacillus plantarum D-乳酸脱水素酵素(D-LDH)においては、His-296が酸塩基触媒として作用し、Arg-235が基質の結合に重要であることが示された。すなわちこれらの残基は、L-LDHのHis-195とArg-171にそれぞれ対応し、両LDHは、進化的には大きく隔たる酵素でありながら、きわめて類似した基質結合と触媒の機構を備えていることを示している。さらにL-LDHにおいてはHis-195と対をなすAsp-168の負電荷が、基質ピルビン酸との結合及び触媒上の遷位状態の構造を安定化していると考えられているが、そこでこれに対応する残基をD-LDHにおいて検索した。D-型酵素ファミリーにおいて保存されている、193、200、240位のAsp、264位のGlu残基のカルボキシル基を、それぞれ部位指定変異によりアミド基に置換したところ、Glu-264をGlnに置換した場合にのみ大きな活性低下が見られた。既にL.bulgaricus D-LDHにおいて、Glu-264をGlyに置換した変異型酵素が報告されている。この場合には酵素活性は大きく低下せずに、そのpH依存性が大きく酸性側にシフトしたことから、Glu-264は触媒活性に必須ではなく、触媒His残基の近傍に位置することにより、酵素のpH依存性を中性付近に調節している残基と考えられている。しかしながら、L.plantarum D-LDHにおいてGlu-264を同様に負電荷を消失させるGlnに置換した場合には、顕著なpH依存性のシフトは認められず、並異型酵素は、大幅に増大したKm値と減少したkcat値を示した。この結果はL-LDHにおいてAsp-168をAsnに置換した結果によく対応し、本残基がL-LDHにおけるAsp-168のそれと相同な機能を持つことを強く示唆している。本結果はL.bulgaricus酵素の結果と異なるが、もし両D-LDHにおいてGlu-264の機能に相違が無ければ、L.bulgaricus酵素の場合は、残基を側鎖の無いGlyに置換したために、酵素の構造にさらに大きな変化が引き起こされた結果とも考えられる。